巫女の目論見

 フランチェスカの話を聞いたにもかかわらず、カーラウニは全く動揺しない。

 ヘラヘラと笑えるのは、何か考えがあるからだろうか?


「このちびっ子はなぁ、一週間くらい前にウチの店に来よってん。『大量にエーテルがある場所に連れて行けって』しつこくてなぁ、ちょうどいいから仲間に加えてやったんや」

「たしかに、ここテラファー遺跡にはエーテルだまりがいっぱい出来ますけど……。その子は大量のエーテルを集めて何をしようとしてるですか?」


 ヴァンパイアの共同墓地にとどまらず、テラファー遺跡内からもエーテルを集めようとしているのだから、何か大掛かりな事をしでかしそうだ。

 子供は探るような目でステラを見つめつつ、ヨロメクようにして一歩だけ進み出た。


「……眠る力……、……使命」


 小さな口から放たれるのはたどたどしい言葉だ。

 あまりにも拙く、理解するのは難しい。

 この子供とカーラウニは意思疎通可能なのだろうか?


 困り果てるステラとは違い、アジ・ダハーカの方は子供の言いたい事を理解したようだ。


「ふむ……。そやつはもしかすると、神の巫女なのかもしれん」

「巫女? ってことは、女の子なんですか?」

「左様。太古の時代、神々は自らの言葉の代弁者として、人の娘を選定した。その魂は身体が滅してもなお受け継がれる」

「ほほぅ。ではあの子供は魂的に高齢……と」

「そうかもしれん」

「ちなみに、彼女はどの神様の巫女さんなんですか?」

「体のどこかにしるしがあるはずだが、ローブを纏っておるから、確認出来ん」

「ミステリアスなんです」


 子供についての情報をもっと得るために、カーラウニに質問しようとしたのだが、遺跡の案内係に阻まれた。


「開始まで後30分ほどです。皆さん、そろそろ準備をお願いします」


 懐中時計を見ると、確かに良い時間になっていた。

 もう少し話をさせてくれたっていいじゃないかと、ステラが頬を膨らませている間に、カーラウニ達は移動を始めた。


「ほんじゃ――」


 彼等をフランチェスカは黙って見送ったりはしなかった。


「カーラウニ! 決闘が終わったら、あんたの仲間がしでかした事をヴァンパイア社会に伝えるわ。それだけ許されないことをしたの!」

「フランチェスカはん。ワイはな、ヴァンパイア族の為に動いとるんよ。邪神様の力を解放したなら、ワイ等はもっと強くなる。楽しみにしててや」

「まさか、神様を利用しようとしてるの? ありえないっ!」

「ま、もう30分したら拳で語り合おうや」


 カーラウニは不穏な事を言い残し、通路の角を曲がって行った。

 現実味の無さ過ぎる話に、ステラの頭は思考を止める。

 

(邪神の力を解放する……? ああ、さっき子供が言ったのは、この事なんだ……)


 ”邪神”は本当に居るのか?

 もし居るとしても、ヒトやヴァンパイアが多少動いたくらいで”力の解放”を行えるのか?


 情報が無さ過ぎて全く分からない。

 一同が沈黙する中、ステラの相棒のみが落ち着かなさげに天井付近を旋回し続けている。


「マズイ事になってきたな。……この決闘、続けさせて良いのだろうか?」


 小さなドラゴンの独り言が妙に耳についた。


◇◇◇


 開戦までの間、ステラは一週間以上かけて製作したマジックアイテムをメンバーに配布し、その後作戦内容の再確認を行った。


 陣地付近で敵の気を弾くのはエルシィとレイチェルの二人だ。

 幻覚効果のある”身代わりバルーン”を利用してステラのコピーを作り、陣地に置いておけば、大抵の者を騙せるだろう。


 地上でエーテルだまりを潰して回る役目は、コリン達男子5人。

 個々人がこの数か月で魔法の腕をかなり上げていることから、向こうの陣営の者達と戦闘になったとしても、それなりに戦えると踏んでいる。


 ステラとフランチェスカは、二人で遺跡内部を巡る予定だ。

 エーテルだまりを潰したり、下から地形を変化させたりなど、やろうとしている仕事は多い。


 メモ帳を見ながらそれぞれの役目を読み上げたステラに対し、8人のメンバーは力強く頷いた。


「役割は以上になるですっ。後はベストをつくすだけって感じかもですね! 力を出し切ろうです!」

「「「おーう!!!」」」


 カーラウニ達がやろうとしている事が気になって仕方がないが、このタイミングで敵前逃亡なんて情けなすぎる。何かをしでかされる前に勝利してしまうのが良いだろう。


 ステラは改めて気合を入れてから、頭上を見上げる。

 小さなドラゴンは未だにブツブツと呟きながら動き回っている。


(アジさん。明らかに隠し事をしてる……。この決闘中に向こうが何かしかけてきたら、口を割りそうな気がする)


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