鳥型ドローン(SIDE フランチェスカ→ステラ)
フランチェスカは強く打ち付けた背中の痛みにうめく。
しかし、それでも先祖の墓を守らなければならないという義務につき動かされ、ヨロヨロと丘を登る。
すると……。
「!?」
墓石の周囲に大穴が開いていた。
慌てて中身を覗き込めば、あるべき物が見当たらない。
「アイツ……。始祖様の遺体を盗んだ?」
ここには、ヴァンパイアの始祖が眠る棺桶が入っていたはずだ。
息を引き取って久しいその身体は腐る事無く、ヴァンパイア族の行く末を見守っていた。だが、今は棺桶ごと無くなってしまっている。
「探さなきゃ……」
これはヴァンパイア社会を揺るがす事態と言える。
フランチェスカは背中の痛みも忘れ、先ほどの子供が消えた方向に走り出した。
◇◇◇
カーラウルとの決闘を二日後に控えた木曜日の放課後。
ステラは魔法学校の校内にある売店へと足を運ぶ。
本日は売店係の当番ではないが、先輩であるクリスに呼ばれているのだ。
正直なところ、決闘の事等で頭がいっぱいのステラは、クリスと会話する気分ではない。
というのも、マクスウェル家で打ち合わせをしてからフランチェスカと連絡がとれなくなってしまっているからだ。
あれほど、モチベーションが高かったのに、逃亡したとも考え辛く、どうしたものかと悩んでいる。
(刑務所にいるフランチェスカさんのお兄さんと面会してみるとか、カーラウルさんに事情を聞きに行こうかな?)
どちらのヴァンパイアとも会いたくないため、かなり憂鬱である。
それに、決闘用のアイテムをもう少し作りたいので、圧倒的に時間が足りていない。
モンモンと考え事をしているうちに、食堂の入口にたどり着き、売店のカウンターの様子が見えた。クリスはカウンターに頬杖を付いている。
客がいないからか、かなり暇そうだ。
(クリスさんて時々ヘンテコな頼み事するから気が抜けないな)
彼に近付いて行くと、向こうもステラに気が付いたようで、怠そうに顔を上げた。
「お疲れさんです。クリスさん」
「うん」
「私に何か用なんですか?」
「そうそう。実はさー、新しい道具を作ったから試してほしいんだよね」
そう言いながらクリスが取り出したのは、小さな立方体の機器だ。
側面には黒い板が張り付けられており、ちょうど小型のテレビのように見える。
「テレビですか?」
「いんや。これでドローンが撮影した映像を見えるから、二日後の決闘の時に役立つかもと思ってさー」
「おぉ! それだと、確かに役立つんです! あ……、でも私、ドローンなんか持ってないですよ?」
「だろーね」
クリスは決闘に参戦しない。そのため、当然彼のスキルに頼れないのだ。どのようにフィールド全体の様子を確認したものかと頭を悩ませていた。
この小さなモニターが話通りの性能なら、その悩みを解消できるかもしれないが、撮影する機材がないのでは話にならない。
クリスはステラの状況を百も承知のようで、ニタニタと笑っている。
「安心しなよ。使える後輩の為に、俺の造った新型ドローンを持って来ているから」
カウンターに乗せられたのは、白い鳥型のロボットだ。
文鳥にも似たデザインは非常に可愛らしく、ステラは大いに物欲を刺激された。
「わぁ! こんなに小さなドローンがあるですね! これもお試しで使えるんですか?」
「いんや、これは一泊二日で金貨20枚払ってもらう」
「金貨20枚!? たっかいんです!」
「しょうがないじゃん。最新式のパーツを使って組んだし。そのくらい出してもらわないとさ」
「ぐぬぬ……。なんだか罠にはまった気分なんです!」
「ぷぷっ」
レンタル料は高いが、これ程便利で可愛い機材があると知ってしまうと、ついつい財布の紐が緩んでしまう。
気が付くと、ステラは猫型のがま口から金貨を取り出し、数えていた。
そして、それらをカウンターの上に叩きつける。
「借りるですっっ!」
「稼ぎのいい後輩が居ると助かるね~」
クリスはボックス型の金庫にコインをしまってから、マニュアルらしき冊子を取り出した。
ちゃんと扱い方を説明してくれる気はあるらしい。
「ドローンの頭の上のボタンを押すと起動するから――」
製作者の操作により、ドローンが動き出す。
華奢な羽をはばたかせ、舞い上がる様は本当の鳥みたいで、ステラはすっかり魅了されてしまった。
(高額のレンタル料は腹が立つけど、クリスさんの技術って本当に凄いなぁ)
感動ついでに、一つ良いことを閃いた。
「クリスさんって、食べ物とか飲み物を大量に製作する機械を持ってないですか?」
「食べ物って……ポップコーンとか?」
「違うんです! ポーションです!」
「ポーション……?」
クリスは理解できないとばかりに、目を細める。
確かにこれは、きちんと順を追って説明しないと、協力を得られないだろう。
ステラは呼吸を整えてから、のんびりと話し出した。
先日ステラはガーラヘル王から、駅売店での販売権を貰った。
大きく売り上げと知名度を伸ばすいい機会なのだが、チマチマと手作業をしているのでは、出品数が限られてしまう。
だから、製作を補助してくれるような機械があれば、入手したい。
一通り語り終えると、クリスは半笑いでステラの顔を見上げていた。
「相変わらず、ステラにはいい話が舞い込むよな。でも、今そういう装置はない」
「うー……、ですよね」
「でも、開発してみてもいいけど? いい感じの装置が出来上がったら、俺にもメリットがあるし」
「ほんとに!?」
「来週にでも、ポーションの製作工程を文章でまとめて持って来て」
「ほい!」
クリスのことだから、かなり良い機械装置を開発してくれそうだ。
駅の売店への出品が現実になりそうな予感に、ステラはにんまりと笑った。
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