真面目な協力者
鳩時計の窓から鳥人形が飛び出て、夕方の18時を知らせる。
エルシィから貰った首飾りの話をグレイスに聞かせているうちに、時間はあっという間に過ぎていた。
「ただいまー」
「おかえりな――」
陽気な感じに居間に入って来たのは、ジェレミーだった。
彼に視線を向け、固まる。
「むぅ?」
来客を連れていた。
普通の人だったら別に構わないけれど、客はステラのクラスメイト――しかも数日前から散々ステラを追いかけまわしてくれた少年コリン・グリーグだ。
グリーグ家は昔からマクスウェル家と交流が厚いので、ジェレミーはこの少年と顔見知りだったりする。だから、こうして連れて来てしまったんだろう。
コリンはステラに目を留めるやいなや、ニカリと良い笑顔を浮かべた。
怖すぎる……。
「ジェレミーお帰りなさい。早く帰ってこれていいわね」
「おや? グレイス叔母さん。来てくれてたんだね」
「えぇ。ステラと少し話していたのよ」
「そうでしたか。この前頼んだアイテムの検品の件かな?」
「そうなの。夕食前に検査結果を伝えてもいいかしら?」
「勿論! あ、そうそう。ステラ、道端でグリーグ家のコリンを拾って来たんだ。君にどうしても話したいことがあるそうだよ」
「何で拾って来たりなんかしたですか! 元の場所に戻して来いです!」
「まぁ落ち着いてよ。ここで何かあったら直ぐに僕に伝わるようにしてあるからさ。安心して話をしなよ」
「ぐぐぐ……」
つまり、この部屋には何らかの術式が仕込まれているてことだ。
全く安心出来ないどころか、別種の恐怖が沸き上がるような事を言い、ジェレミーはグレイスを連れて居間を出て行った。
ドアが閉まってから、ステラは半眼でコリンを睨む。
「急に来ちゃってごめん。訂正しておかなきゃいけない事が有る気がしたからさ」
「……」
「レイチェル・ブラウンから聞いたんだけど、ステラちゃんは僕等がアイテムの効果で”魅了”状態になっていると思ってるみたいだね」
「悪い事は言いませんから、解けるまでの間は家に居たほーがいいですよ」
「僕を心配してくれてるんだね。有難う。でもね、僕はいたって正常」
「それは勘違い」
「勘違いなんかじゃないさ! あの日、君の素晴らしい能力を目にして、スッカリ沼にはまったんだ。ブリックルの気持ちの悪い術中にあったのに、君の作ったアイテムの香りをかいだとたん、心洗われる感覚におちいったんだよ。あの感動を他の人間たちにも広めたい!!!」
ペラペラと早口で伝えられる内容に、危うくほだされかけ、ステラは頭を振る。
「残念ですけども、コリンさんは状態異常”魅了”にかかってんですよ」
「一時的にはそうだったかもしれないけど、帰宅したら解けていたんだ。医者からもそう言われてるから間違いはないと思う。疑うなら、今僕にアナライズをかけてみてよ」
「一度やってはみてるんですけどね……。まぁもう一度してもいいですが」
仕方なく【アナライズ】をコリンにかける。すると……
【ジョブ】魔法使い L v31
【サポートジョブ】ナシ
【パラメータ】 STR:79 DEX:99 VIT:53 AGI:58 INT:295 MND:328
HP:2,730/MP:4,550
【アビリティ】攻撃魔法Ⅲ、治癒魔法Ⅲ、防御魔法Ⅲ、分析魔法Ⅱ
出て来たデータには、状態異常の表示はない。
やはりコリンは全くの健康体なのだろうか。
「私の魔法が失敗してるのかな……。うぅ……」
「ステラちゃんが失敗するわけないよ!」
「うぅぅ……。そういう太鼓持ちはいらないんです!!」
「なら、本題に入らせてもらうよ!」
「ほ、本題?」
「そうさ! 僕なりの販売スケジュールを考えてきたんだよ!」
テーブルの上に、カレンダーと地図が広げられる。
なにやら細かく書き込みがなされているけど、コリンとのやり取りに疲れ切ってしまったステラにはミミズが這った跡のようにしか見えない。
「まずはね、協力者6名でローテーションを組もうと思う。昼の休憩時に交代で校内を巡回するよ。二人一組で校舎の内側と外側に配置して、こんな感じに客を獲得を――」
熱心な話しぶりには感心するけども、それ以前の問題があるので、イマイチ集中して聞けない。
「……あの。売り子は私一人で十分です。売店で一番売れているポーションの製作数には限りがありますから」
「それは何故だろう?」
「私のポーションには”妖精の大麦”から抽出するウォートを使用しています。毎週王都に流入する妖精の大麦の量は少ないんですけど、そこからグレイスさんみたいな固定客にまず、優先して売られて、残りの極少数を私みたいなモグリが取り合う感じなんです」
「なるほど、それで製作量が少なくなるわけなんだね」
「うん」
「僕なら何とか出来るかもしれないよ!! 入手先に心当たりがあるからね!」
「むむ……本当ですか?」
「本当だよ! 無事に解決して、君からの信頼を勝ち得よう!」
その言葉にはうさん臭さを感じずにいられなかったが、コリンの熱意には、何を言っても無駄なようだ。なので、取りあえず任せてみることにした。
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