天敵現る

「お前達!! いつまで売店前に居るつもりだね!? あと四分二十七秒で授業が始まるのだぞ!」


 覚えのある声が人垣の向こうから聞こえてきた。

 ステラがトンガリ帽子を両手でズラして周囲を確認すれば、生徒達を押し除けるようにして教師が近づいて来ていた。


 戦闘魔法学の教師ブリックルだ。

 陰湿な目つきで睨みつけてくる彼に内心辟易としながら、ペコリと頭を下げ、形ばかりの礼をする。


 

 実は、ステラはこの教師に目を付けられている。

 しかし、別に特別悪いことをしたわけではない。むしろとばっちりだ。

 ブリックルが以前勤めていた魔法省を追い出された原因の一つに、ステラの義兄の行動があったらしく、妹であるステラが八つ当たりを受けるはめになったのだ。


 今日は一体どんな事を言い出すのだろうか。


 ボンヤリと見上げるステラに苛立ったのか、ブリックルは両手で売店のカウンターを叩いた。


「わぁっ」

「あいも変わらず締まりのないツラをしているな」

「ちょっと眠いので……」

「ほう? ならば目を覚まさせてやろう。お前を売店係から外す」

「外すって、クビって意味ですか?」

「それ以外の意味などないだろう!」

「うぅ……。ちょっとショックなんです……」


 売店付近に残っていた生徒達から非難の声が上がるが、ブリックルは無視する。


「戦闘魔法学を教えている者として前から思っていたのだが、お前が売りさばいているアイテムの所為で、生徒達の実力が測りづらくなっている」

「えーと。アイテムの使い方も実力のうちなんじゃないかな~と、思ったりして」

「黙れ! とにかく、お前は今この時点から飼育係だ!」

「えぇ……。言葉が通じない生き物は全般的に苦手というか……」

「フンッ。マクスウェルの出だけあって、血の通った人間とは思えぬ発言だな」



 言いたいことを全て伝えられて満足したのか、彼は勝ち誇った様な表情で立ち去った。

 残されたステラはアジ・ダハーカと目を見合わせる。


「飼育係って稼げますか?」

「鳥類ならば卵。食肉用の家畜ならば肉。それぞれ市場で売れないこともないだろう」

「なるほどぉ」


 現実的な意見に感心する。


 この小さなドラゴンは妙に人間社会に慣れている。

 ステラが赤児の頃からマクスウェル家で過ごしていたから、人の暮らしを学ぶ機会が多かったんだろう。


 というか、生まれたばかりのステラをマクスウェル家に運んで来たのは彼なのだ。

 一時はこのドラゴンが自分の親なんじゃないかと本気で思っていたのだが、そういう事実はないらしい。だったら本当の親について教えてくれてもよさそうなものなのに、何故か教えてくれない。


 それでも、ステラは自分のルーツを知りたい。

 アジ・ダハーカが教えてくれないなら、自分で調べればいい。

 売店で自作のアイテムを売る理由は、ルーツを探る為の資金稼ぎだったりする。


「それはそうと、もう数分で午後の授業が始まるぞ」

「本当だ!」


 自分のアイテムをまとめるステラに、生徒達が慌てた様に声をかけてくる。


「ステラちゃん! 俺にだけでもアイテムを売ってくれよ~!」

「ブリックルのいう事なんか無視しちゃえ」

「君のポーションがないと困るよ」


「放課後に担当する人に私のアイテムをちょろっと売ってもらうように、頼んでおくです!」

「「「おおっ!!!」」」


 生徒達が売店の前を去るのを待ってから、ステラは売店の戸締りをした。



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