第156話 ぴかぴかに金色に光った争いの種をまく
1533年(天文2年)6月
- 京 施薬不動院 -
主上の即位式を2か月後に控えた京の施薬不動院に大勢の人間が押しかけていた。これは主上の即位式にあたって、毛利氏が大量の芋焼酎と清酒。それと
この告知のために俺が投入したのは、わら半紙とガリ版印刷。告知チラシを京の街に配ること。ただ人々の識字率が低いという問題があったので、チラシが読める人間は読めない人間に口頭で伝えるようチラシにはお願いとして書いている。
まあ、チラシを配るのがメインの目的ではなく、質は悪いが大量の紙を無料で配れる毛利氏の経済力と、主上からの下賜に名を借りた毛利領内の特産品を京にいる字が読める層-商人や上京してきた武士―にアピールが目的だから問題ない。
ちなみに
「さすが欧仙汚い。汚い欧仙」と司箭院興仙さんや尼子経久さんには大絶賛された。
あと清酒は、主上の即位式に一定額以上の献金をしてくれた大名に主上からの下賜という名の返礼品にしている。
俺がこっそり情報を流して、一定額以上の献金をしっかり行った甲斐(山梨)の武田信虎さんや、織田信秀さんから進言を受けた尾張(愛知西部)の斯波義統。同じく朝倉宗滴さんから進言を受けた越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)の朝倉孝景さんや九英承菊さん経由で栴岳承芳さん(今川氏輝さんの弟らしい)から進言を受けた駿河(静岡中部から北東部(大井川以東))の今川氏輝さん。そして伊勢長綱さんから進言を受けた相模(神奈川の大部分)の北条氏綱さんは、礼状と共に特級の清酒を大樽でゲットし大いに面目を保ち、献金がわずかに足りず中樽ゲットとなった越後(新潟本州部分)の長尾為景さんなどは大いに悔しがったという。
なお、この時に献上した清酒には、「菊華」という名前が宸筆 (天皇直筆の書)にて、また芋焼酎には「櫻花」という名前が下賜され、以降人々に愛されていく事になる。
また、ガリ版印刷によって印刷された宸筆の「菊華」の文字が書かれたラベルと元就さま直筆の「櫻花」と書かれたラベルが告知チラシとともにコレクションとして好事家の間で取り引きされるようになるのだが、それはまた別の話である。
そして・・・
「ありがたや」
「ありがたやありがたや」
と、さっきから下賜された焼酎や焼き芋を受け取ったついでに俺を拝んでいる人がいる。それは老若男女を問わない。たぶん数年前に京で天然痘が流行したとき、毛利氏による医療活動で命を救われた人だろう。もしかすると、その後に施薬不動院で定期的に行っている炊き出しで命を繋いだ人かもしれない。まあ、毛利領内でも俺を拝む人が少なからずいる。主に石見(島根西部)にある学舎関係者にだが・・・もしかしたら俺が死んだ後には菅原道真公のような天神様に祀り上げられるのかもしれない。
1533年(天文2年)7月
- 三人称 -
- 北近江(滋賀北半分)坂本付近 -
ガタゴトと大きな馬車が体高が2メートル近くある大きな馬に曳かれて走っている。その数3台。馬車には御者がいて荷台には大きな幌がかけられたおり、たなびくムシロには茶釜を背負った狸の絵・・・臥茶屋の屋号が描かれている。
また馬車の脇には10人の足軽らしい護衛と馬に乗った人間がふたりが並走して歩いていて、その光景はおよそ日本の戦国時代にそぐわないものだが、同時にとても目立つ光景だ。
「という餌撒きがあったのが半月前のことだ」
謎の出雲(島根東部)商人が馬上でカンカラと笑いながら隣りにいる馬上の吉岡長増に声をかける。
「これに喰いつきますかね?」
「餌は半蔵殿が的確に撒いているから心配は要らんだろ」
吉岡長増の言葉に謎の出雲商人は答える。撒いた餌というのは、京に来ていた出雲の商人が、西国の酒を美濃(岐阜南部)や尾張(愛知西部)に売り込むために商隊を組んで坂本を通過するというものだ。
「何時頃来ますかね?」
「そろそろ・・・ああ、来たようだ」
謎の出雲商人が目を細めてみるその先に、20人ほどの僧兵と30人ほどの農民らしき人がワラワラと出てくるのが見えた。
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