第152話 再会、俺と信英

1533年(天文2年)3月

 ー 甲斐(山梨) -


「泥かぶれの原因と対策」を武田信虎さんに報告して、帰国の準備を始める。武田信虎さんは、「泥かぶれ対策の結果」がでるまで俺を甲斐に留める気は無かったのか、俺の帰国をあっさりと承諾してくれたのだ。これは報告の際に中間寄生主である巻貝を完全に根絶するにはそれなりの時間がかかると言ったからね。

 ただ、俺が帰国するついでに、武田氏から朝廷と幕府への献金と書状を届けて欲しいとお願いされた。どうやら武田太郎くんの婚礼に合わせて、武田太郎くんに官位と諱を朝廷と幕府におねだりするつもりらしい。俺に泥かぶれの調査云々という話は、解決する気はあるんだろうけど、このお使いのためのダシに使われたようだ。

 で、俺が京に戻る時に同行する武田氏の家臣というのが俺に会い来ていた。


「お初にお目にかかります。小山田孫三郎虎親と申します」


 そう言ってどこか懐かしいというかある意味見覚えのある面影の青年が頭を下げる。これは是非とも確認せねば・・・


「畝方石見介元近です・・・」


 お互いに顔を見合わせて黙り込むこと3分。


「いごよさんかかる」


「鉄砲伝来」


 俺の問いに、僅かに驚いたような顔をして小山田虎親が答える。


「いっこくを」


「秀吉天下統一」


 少し考えて小山田虎親が聞いてきた問いに俺が答える。


「天下分け目の関ヶ原」


「1600年」


 俺の問いに小山田虎親が答える。


「いくいくパリの」


「っ、世界史かよベルサイユ条約」


 小山田虎親が舌打ちして答える。やがてどちらからともなく「「クックックック」」、「 「フゥハハハハ」」、「「アーハーッハッハッハ!!」」と強者の笑い三段活用で笑い始める。


「信英か?」


「やっぱりお前か・・・」


 俺の問いかけに小山田虎親こと前世?小田信英は呟く。いや小山田虎親呼びでいいか。


「しかし、見た感じ随分と年の差があるな」


 俺が抱いた疑問に、小山田虎親は苦笑いをしながら経緯を説明する。

 俺と一緒に死んだ小田信英だが、その魂を引きとってこの世界に転生させたのは、ヘラという名前の女神だった。

 もっとも、小田信英は、彼女から女神だと自己紹介されるまで、笹穂状の耳を持ったあおぐろい肌のけしからん身体のダークエロフもといダークエルフだと思っていたらしい。うらやま・・・

 で、女神ヘラさん。小田信英をこの世界に送り込むにあたって、小山田虎親という甲斐の有力国人の跡継ぎという地位を用意したという。どうやらこの時代で底辺から成り上がるには非常に困難だと判断したようだ。

 なにしろこの戦国時代。一兵卒から成り上がって一国の主になった人間は数えるほど少ない。有名なのは農民の倅から天下人となった豊臣秀吉ぐらいだろうか?

 ちなみに、一介の油商人から美濃(岐阜南部)一国を盗ったとされる斎藤利政 (斎藤道三)は、実際は父の代から美濃の小守護代だった長井氏の家臣。素浪人から伊豆(静岡伊豆半島)と相模(神奈川の大部分)を領した伊勢宗瑞 (北条早雲)は将軍家に直接仕える名門武家の出身だったりする。


「で、女神ヘラの目的は何だ?」


「旦那を楽しませる為のスパイスって言ってたぞ。俺が天下統一しても良いとか言ってたな。もう無理だけど」


 小山田虎親は大袈裟に肩を竦める。うーむ。話を聞いて推測するに、女神ヘラは小山田虎親を送り込んで武田と毛利による「天下分け目の関ヶ原」みたなものの演出を狙ったのだろうか?

 だとしたら小山田氏の嫡子に転生は失敗だ。小山田氏が仕える甲斐武田氏は、小山田虎親が下剋上を目指すには強大であり、補佐して領地を広げるには土地が貧しすぎて相応の準備が必要になる。

 甲斐には豊富な金山がある?小山田虎親には現代知識がある?残念だが彼の母親が甲斐武田氏の先代当主である武田信縄の娘である時点でアウトだ。

 もし小山田虎親が子供の頃から才を見せていれば、即座に母親経由で主家武田に小山田虎親の才が伝わって、最悪だと下剋上の芽を摘むためにこっそり暗殺されていただろう。


「よく自重できたな」


「出る杭は打たれるのは基本だろ。というか、つーか、お前の自重しない無双ぶりが凄いわ」


 小山田虎親が、物凄く呆れた顔をする。


「知っていたのか雷電」


「誰が雷電だ。この時代の関東の忍びと言えば相模(神奈川の大部分)の風魔小太郎だろう。元服したときに真っ先にお迎えに行って、それからお前のことを調べさせたんだよ」


 俺のボケを軽く流し、小山田虎親はニヤリと笑う。有名どころを世に出る前にゲットするのは基本だよな。俺もやってるし。


「なるほどね。ところでお前の貰ったチートってなに?」


「ああ、後でお前のチートも教えてくれよ?俺が貰ったのは・・・」


 小山田虎親は疲れたように大きくため息をついた。

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