第111話 少弐氏の滅亡と同時に知る黒歴史の書
- 豊後(大分南部) 西山城 -
「お初にお目にかかります。龍造寺孫九郎家兼と申します」
「龍造寺六郎次郎周家と申します」
元就さまの前にいた、ふたりの男が深く頭を下げる。龍造寺家兼さんと嫡孫の龍造寺周家さんだ。嫡男である龍造寺家純さんは居城である肥前(佐賀から長崎)の水ヶ江城で少弐資元の攻撃を凌いでいるそうだ。
「我ら龍造寺は毛利さまに臣従いたします」
そう。龍造寺家兼さんのところに毛利氏からの軍事支援の話を持っていったら、渡りに舟という感じで国人としての従属ではなく家臣としての臣従を申し込んできたのだ。いまや毛利・大内で九州にある筑前(福岡北西部)、筑後(福岡南部)、豊前(福岡北東部から大分北部)、豊後(大分南部)、日向(宮崎)が支配されている現状で毛利に支援して貰ったり従属したところで意味がない。なら最初から臣従しようと判断したそうだ。
「判った。家兼殿は暫く畝方の元で、大内と共に肥前(佐賀から長崎)の統一を」
「委細承知」
龍造寺家兼さんが頭を下げる。
「周家殿は石見(島根西部)の矢滝城に人質として。まあ、なんだ。人質ではあるが毛利のやり方を勉強してきてくれればいい。大内周防介殿もそこで勉強していた」
「はっ」
元就さまの言葉に龍造寺周家さんは嬉しそうな顔をして頭を下げる。今の矢滝城は、人質を兼ねた毛利氏家臣の子息が集められていることから人質城などという聞こえの悪い二つ名が付いている。
一方で身分の差なく学問を広く教えていることから学びの園で学園城と呼ぶ人間もいる。龍造寺周家さんの喜びようをみると、後者の噂も聞いているようだ。後から聞くと、龍造寺周家さんには誾さんという正室がいて、彼女も一緒に石見に行くそうだ。
「では我らは水ヶ江城に向かいましょう」
「ですな」
龍造寺家兼さんは小さく頭を下げ、俺と龍造寺家兼さんは元就さまの前を辞した。
「しかし、人生判らんものですな」
山西城から西へと向かう道すがら、龍造寺家兼さんが話しかけてくる。7年前。当時は強大だった大内義興さんを筑前で牽制するために刀を献上して誼を結んでからの付き合いだ。
まあ俺も一時的に(多分)ではあるが、龍造寺家兼さんが俺の配下になるとは思わなかった。ただ大友、龍造寺、島津は今後、配下も含めて優秀な人間が数多く出てくる。これから東に向かって進出する以上、無駄に人材を潰すのは避けたい。大友も龍造寺も配下に収めたことは喜ばしい事である。あとは島津だな。
- ☆ -
肥前の攻略は北を大内義隆くんの軍が南を俺と龍造寺家兼さんの軍が城をひとつづつ攻略していく事になった。ただ、肥前は少し前に少弐資元によって統一されたばかりの土地である。
大内義隆くん相手に大敗北し、いま重臣だった龍造寺家兼さんに叛かれ戦っている状態だ。・・・うん。進軍する先にいた肥前の国人大半が、大友氏に突き付けて承諾させた和議の条件を飲んでこちらに寝返ったよ。
和議を拒否した国人が四氏ほどいたけど力任せに攻めた後で降伏勧告。それでも降伏しなかった国人二氏はのちに白旗を上げたけど無視して滅ぼした。
「俺は仏でないのだ。三度目の慈悲は無い」
俺のつぶやきを副官として側にいた今川貫蔵さんがニコニコしながら聞いている。何となく気になる笑い。一方、龍造寺家兼さんの顔は訝しげだ。なんか恥ずかしい。
1528年(大永8年)11月
- 肥前・満城 -
満城は肥前の最西南端にある湾に浮かぶ牧島という島を望む場所にある山城で、俺の軍と大内義隆くんの軍に追い立てられた少弐氏が最後に籠る城でもある。少弐氏がこの城に追い込まれたのは偶然ではない。日向(宮崎)で伊東兵の肝を潰したという
「砲撃命令を」
「はっ」という声と共に、沖の
どん!
轟音が鳴り響きく。
がごん
物凄い音と共に満城にあった櫓のひとつが傾き崩壊する。
どん!
再び轟音が鳴り響く。
ぐわしゃ
郭の壁が崩れ落ちる。
「うわぁ、マジかぁ」
俺の横で攻撃の様子を見ていた大内義隆くんが感嘆の声を上げる。・・・マジかぁって。なんで大内義隆くんが俺しか使わないような口調を使っているんだろう?
「師匠の武器、パないですね」
大内義隆くん物凄い笑顔だ。
どん!
再び轟音が鳴り響き、郭の壁が崩れて大穴が空く。
「砲撃中止」
「はっ」という声と共に、沖の
すると、船のある位置からキラリと光が返ってくる。
「掛かれ!」
龍造寺家兼さんが命令を下すのと同時に、郭の壁に開いた穴に兵が突撃を開始する。
「勝鬨をあげよ!」
「「「「「えいえいおー!」」」」」
「「「「「えいえいおー!」」」」」
ほどなく野太い声による輪唱が響き渡り満城に白い旗がたなびく。城に籠っていた少弐資元と嫡男である少弐冬尚は自刃したそうだ。少弐氏の完全なる滅亡である。
そうそう。後日、大内義隆くんが俺しか知らないハズの言葉を使っていた理由を知ったよ。今川貫蔵さんたちによって、俺がぼそっと呟いた語録が纏められて冊子になっていたのだ。
貫蔵の巻、煙蔵の巻、半蔵の巻。しかもそれぞれ日付とナンバリングがしてあった。語録を集める気満々だった。
そして、蘊蓄のありそうな言葉は学校の教材にもなってるらしい・・・
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