第64話海賊衆討伐戦

1524年(大永4年)9月上旬

- 安芸(広島) -

 生城山城の天野興定さんと金明山城の天野元貞さんそして阿曽沼弘秀さんが毛利氏に従属した。これは三入高松城の経済圏に飲み込まれたのが大きい。また頭崎城の平賀興貞さんが、親大内派で父であり弘保と袂を分かち尼子氏に従属する。こちらは居城が尼子氏が落した鏡山城が近くにあるというのが大きい。これで安芸の東の親大内派は、平賀弘保のみとなった訳だ。これで芸南の海賊衆の討伐に手が付けられる。


宇夜弁うやつべ。発進」


 艦長である日祖徹男の号令の下、戦闘艦宇夜弁うやつべが離岸する。陸で出発を見送る元就さまが実に誇らしげだ。まだ竜骨だけだけど、すぐ近くで宇夜弁うやつべ級2番艦が建造中だもんな・・・


「畝方殿。これはいい船ですな」


 出港するまで艦首で海を見ていた、日に焼けて赤茶けた髪に髭面の男が大声で笑いながらやってくる。彼の名は村上義雅さん。能美能島村上氏の次期頭領である。


「明の永楽帝が南海に鄭和艦隊を送った際に天竺に来ていたという船の図面が手に入りましてな再現したのです」


「ほう。それは誠ですか?」


 義雅さんは目をキラキラさせながら聞いてくる。


「誠でありますぞ。しかも我が毛利では、輸送用で一回り小さい市杵島いちきしま級の1隻が就航し、2隻が建造中。またこの船の同型艦が1隻竣工しておりますぞ」


 俺のこの言葉に、義雅さんは唖然とする。まあ、この規模の船を並行して3隻も建造をしているというのは唖然とするしかないだろう。大型船の建造のための資金を生み出している金銀を精錬する灰吹き法。恐ろしい子である。

 あ、木を切った後の植林事業もきちんと指導しているよ。この辺は、史実でも灰吹き法で大量に木材を消費していた石見銀山で見られていたことなのでね。


「毛利と組めばこの技術提供も?」


「船団を編成する必要がありますから、ある程度は提供しますぞ」


 俺の言葉に考えこむ義雅さん。5分ほど考え「説得はお任せください」と頭を下げてくれた。

 3日後。能美能島村上氏は毛利氏についてくれることを来島村上氏及び因島村上氏は中立でいてくれることを約束してくれた。



 1524年(大永4年)9月中旬


 能美能島村上氏と白井氏の水軍が能美の能美仲次を、坂元貞さんと熊谷貞直くん。それと生城山天野氏と金明山天野氏の軍が呉の海賊衆に対して進撃を開始した。戦闘艦宇夜弁うやつべは、毛利氏の家紋を掲げての公式実戦投入である。


「右舷、8町、(約872メートル)能美仲次の関船1隻と小早10艘接近中!」


「伝令。予定通り小早は任せた。我が宇夜弁うやつべは関船の腹に突撃したあと白兵戦を仕掛ける」


「「「あいあい。白兵戦準備」」」


 甲板にいた船員が白兵戦準備を復唱していく。ほどなく船室から刃幅の広い蛮刀を携えた船員が現れ、配置につく。

 能美能島村上氏と白井氏の関船2隻小早12艘が相手の小早に攻撃するべく散開していく。

 宇夜弁うやつべは1段階速度を上げる。


 ずん


 船体に衝撃が走り、関船の横腹に宇夜弁うやつべの艦首が接舷する。宇夜弁うやつべの艦首には衝角ラムがあるので、関船は離れることが出来ない。


「者ども掛かれ」


 俺が刀を振り下ろすと、船員がひゃっはーしながら関船に乗り込んでいく。一方、体当たりされることを想定していない関船では衝突時の衝撃から立ち直れていない。一方的な殺戮が始まる。


「左舷に敵の小早1艘」


「左舷、弩一斉掃射!」


 命令と同時に船腹から矢が射出されると、小早はあっという間にハリネズミになる。


「能美仲次、討ち取ったり!」


 勝鬨があがり、周りにいた能美氏の小早は次々と降伏していった。



 坂元貞さんと熊谷貞直くんの軍2000は白井氏の出張城から海岸線沿いに南下し、天野両氏の軍800は出張城から矢野から熊野へと進み、山を越えてから呉に進攻した。


「掛かれ!」


 坂元貞さんと熊谷貞直くんの軍は有崎城を、天野両氏の軍は掃部城、岩山城を抜き、呉千束要害に迫る。ここに竹原小早川の家臣である乃美賢勝が水軍を率いて毛利氏側について参軍した。

 海まで完全に包囲された呉千束要害の海賊衆は、頭領格だった山本房勝が自刃する事で降伏し開城。これを受け倉橋の多賀谷興重蒲と刈の多賀谷景時も毛利氏に降伏。

 その後、数度の交渉の末に白山城の平賀弘保は家督を嫡男の興貞さんに譲って自らは隠居。安芸の親大内派は、桜尾城の杉興相と門山城の大野少弼。厳島の神主家当主に返り咲いた小方重康を残すのみとなったのである。

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