第51話山陰大永の師走崩れ
1523年(大永3年)12月
元就さまが琵琶甲城を出陣した。当然俺も従軍する。元就さまは、3年前にも石見(島根西部)に攻め込んでいった備後(広島東半分)の三吉氏の後を追って高橋氏の本拠地である石見本城に進撃したのだから、今回もそのときの道を辿ればいいだけだ。
すでに高橋氏は本拠地に立てこもる選択をしたらしく、隣の幡屋城は簡単に明け渡したそうだ。また、周防(山口南東部)の大内義興が毛利氏と高橋氏の間に入って和平工作をしているけど、元就さまは完全に無視している。偽情報を掴まされたとはいえ攻めてきたのは高橋氏。大内義興はどういう理屈で仲裁をしているのだろうか?
毛利軍は鷲影城、藤掛城、坂本城と順調に落としていく。その際、城の高橋兵と領民は全て本城へと追い立てる。本城に備蓄している食料を少しでも減らすための作戦だ。
二ツ山城に迫ったころ、親大内派で宇山城の城主である出羽祐盛さんが兵1100を率いて、吉川国経さんの伝手を頼ってやって来た。どうやら吉川経基さんの妹が奥さんらしい。随分遠い縁だなぁ・・・で、出羽祐盛さんがいうには、眼前の二ツ山城はもともと出羽氏の城で高橋氏に攻めとられ、奪還の機会を狙っていたのだという。
「大内から毛利に鞍替えし、二ツ山城攻めに参加したいと」
「はっ」
元就さまの問いに出羽祐盛さんが大きく頭を下げる。出羽氏が毛利氏につくなら、これまで占領してきた石見高橋氏の城はすべて破却して、琵琶甲城と矢滝城に兵が集中できる。出羽祐盛さんの願いは一時預かりになったから後で元就さまに進言しておこう。
それから3日後。出羽祐盛さんを総大将に立て俺と口羽広良さんを副将に、兵2500で二ツ山城攻めが始まった。元就さまは、これ以上時間をかけては、高橋氏が雪という名の援軍を得てしまうと判断し、本隊を率いて本城に軍を進めている。仮に雪という援軍が来ても、二ツ山城を落とせばなんとかなるるとは思うけどね。
「かかれ!」
出羽祐盛さんの命令で、兵が城に向かって突撃。対して郭の内部からは、申し訳程度に矢が射掛けられる。二ツ山城は石見では益田の七尾城に次いで古い山城であり、防御力はお察し。しかも高橋氏は二ツ山城を所有したあとは近くに本城を築いて本拠地にしていたので、二ツ山城を維持している程度の手しか入ってない。俺が琵琶甲城や矢滝城に持ち込んだ土嚢による城壁強化技術を見様見真似で導入し、申し訳程度の土塁強化はしているけど、それは本当に申し訳程度だ。
やがて郭の柵に縄が掛かり、引き倒され、空いた穴に兵が侵入していく。どうせ陥落させた後は大規模に改修するのだからと、事前に兵たちに全ての壁を剥ぎ倒すぐらいの勢いで破壊することを命令しているから破壊に迷いがない。
他の城を追い出され兵数だけは多い二ツ山城だけど、備蓄している食料や武器は心許ない。いくつか郭を落として降伏勧告をすればまもなく城は落ちるだろう。
「口羽さま。そろそろ物資の手配をいたしましょう」
「そうだな・・・出羽殿には儂から伝えよう」
ある程度の攻略が進んだのを見て、俺は口羽広良さんにそう進言する。
「はっ。ではそのように動きます」
俺は頭を下げその場を辞した。
-☆-
SIDE 三人称
1523年(大永3年)12月
毛利元就の軍が二ツ山城を落とし本城の包囲を完成したころを見計らって、尼子経久は兵1万を率いて伯耆(鳥取西部)に攻め込んだ。出雲(島根東部)を平定し石見は半分を支配。しかも、いまなら同盟の毛利が軍を率いて展開しているし、南は西条鏡山城を配下に収めている。東の西伯耆に手を出す機会に恵まれたという事だ。
名目は伯耆の守護大名である山名氏の内紛に介入し、推している山名澄之の地位を固める。しかし実際には、西伯耆に尼子氏の基盤を築くこと。そのための下準備は数年前から着々と進んでいた。
「我ら日野衆は尼子伊予守さまに忠誠を誓います」
生山城城主で日野山名氏の山名豊幸を筆頭に、西伯耆南部の国人衆である日野、進、原、蜂塚の頭領が次々に経久に頭を下げる。
「うむ。そなた等の忠誠ありがたく頂こう」
尼子経久は満足気に頷く。これで今回の遠征の目的の半分は達成したことになる。あとは河岡氏、片山氏、福頼氏、小鴨氏、南条氏を滅ぼすなり自軍に引き込むなりすればいい。
こうして西伯耆南部の日野衆の協力を取りつけた尼子軍は、西伯耆北部に軍を展開させる。後に「山陰大永の師走崩れ」と呼ばれる毛利と尼子の東西に広がる電撃作戦が始まったのである。
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