第9話創業未だならず。毛利治部少輔興元、逝く

1516年(永正13年)9月。


 史実から遅れること9日。毛利興元さまが逝去された。ただ、俺が渡した内服薬の分だけ長生きしたともいう。ガチャで出た薬を毛利興元さまが服用したら、幾らか状況が改善したからだ。元就さまから、もっと多くの薬をと求められたのが、こういう時に限ってガチャは仕事をしなかった。いや、物欲センサーが仕事をしたというべきかな、久々にSRが出たよ。


SR

 農耕セット(豆)(土)大豆、小豆に植物生育レベル1のスキルを封じた巻物。

 鉱山セット(土)ツルハシと鉱夫レベル1のスキルを封じた巻物。


 豆は馬の餌になるうえに土壌の栄養分の安定化をもたらす便利な植物である。植物生育レベル1の巻物はアイテムボックスの肥やしになるが、豆の種子はあるので問題ない。今年は開墾ゴーレムに生育させ、再来年の本格量産に備えよう。

 鉱山セットは、ゴーレムと銀山を押さえるまではアイテムボックスの肥やしだな。いまは硬い土壌を掘り起こせるツルハシが出たことに感謝しよう。で、毛利興元さまの延命に僅かながらでも貢献したお蔭か、元就さまから直々に俺の監視を解いたことが告げられた。厳密には足軽小頭に取り立てられ、監視を兼ねた部下が付いたんだけどね。


 部下についたのは懇意にしている山畝村の四郎と六郎太だ。彼らにしてみれば農家の四男、六男から足軽に抜擢されたのだから大出世である。とりあえずふたりには胴鎧をプレゼントしておいた。

 つぎに山畝村に来年には来る米の大収穫に備え、千歯扱きではなく足踏式脱穀機を導入させた。足踏式脱穀機は構造自体は簡単である。木桶の外側に鉄・・・は貴重なので、竹の棒を櫛状に並べ、足踏み式のペダルで回転させる。あとは回転する木桶に稲穂を差し込んで引くだけだ。木桶を箱で覆っておけば籾を集めるのも楽になる。

 構造は簡単だが、元いた世界で発明されたのは明治時代に入ってから。おそらく、安定した収獲が見込めなかったからさほど需要がなかったのだろう。

 基本は扱箸こきばしという大型の箸状の器具を手にもって穂から籾をしごき取ってるようだ。そして、その仕事は夫を失って再婚できなかった後家さんのもので、この便利道具は後家殺しと言われたらしい。なので代わりになる仕事が必要になる・・・どうしようか

 また、山野に分け入り、柴刈りとは別に落ち葉の収集を頼む。腐葉土造りのためだ。レートは唐芋サツマイモ1袋に対し同じ重さの枯れ葉の入った袋を1個。ただし村の子供が対象で1回限り。村人からは子供に対する施しの一環と見られている模様。

 あと、肥溜めを・・・赤痢の発生源になる事があるから廃止したいところだが、よく発酵させて使用することが大事だと啓蒙することに留める。だが、小便は硝酸カリウムを採掘するために買い取った。物凄く怪訝な顔をされたが、特別な肥料を創るための準備だと説明しておいた。

 硝酸カリウムは、すり鉢状に掘った穴のなかに土、藁、枯草、蚕の糞を交互に積重ね、その上に集めた小便をかけて一年に1回ほど攪拌して発酵させると取れるようになる。

 採掘できるようになるまで5年以上かかるという長丁場だけど、火薬をガチャだけに頼る訳にもいかないからね。いまから仕込んでおく。


 また、硝酸カリウム鉱山?は冬でも一定の温度に保つ必要があるので、予定地の上に四郎と六郎太の家も作る。農繁期には俺の唐芋サツマイモ畑の管理をお願いする予定なので、実家から完全に独立させてやる必要があるからだ。(そうしないと実家の農作業に駆り出されてしまう)

 建てる家の材料は、以前に解体した廃村の家の材木があったので、夜の間に村のはずれに取り出して置いて、食料を対価に運び込みと建築をお願いする。

 家は1週間ほどで組み上がったよ。すごいね。あ、そうだ。硝酸カリウム鉱山に蚕の糞が必要なのだから、後家殺し対策に養蚕を導入すればいいのか。

 養蚕は絹の生糸を得るだけでなく、蛹は漢方の材料や家畜の餌、食用油や、石鹸の原料としても利用できる。蛹を佃煮にして村民のたんぱく源にするのも手だ。忘れないように懐から紙を取り出しメモをしておこう。


 さて、毛利興元さまがお亡くなりになって49日経った。法要の席で元就さまは毛利興元さまの嫡男である毛利幸松丸さまを毛利宗家の後継として認めた。先代である毛利興元さまが8歳で家督を継いだ例もあるので2歳になる毛利幸松丸さまが継いだとしても大きな問題にならなかったのがひとつ。

 そして、毛利幸松丸さまが外祖父である高橋久光さんと元就さまが共に後見役につくことで意見が纏まったという。説得に2カ月もかけたお蔭か、元就派の不満は少なかった。反対派の懐柔に唐芋サツマイモが大活躍したらしいけどね・・・


 そうこうしているうちに年が明け、1517年(永正14年)2月。安芸(広島)の分郡守護である武田元繁が山県郡今田城に進出してきたのである。

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