第9話 その3
「第1回 高校生お笑い選手権」と名付けられたその大会は、発表直後から大きな注目を集めるイベントとなっていた。
かつては「ダンス甲子園」や「ハモネプ」。さらには今も続いている「高校生クイズ」など、高校生が活躍するイベントは数多く開催されてきたが、反響の大きさを見ても、この「高校生お笑い選手権」は久しぶりのビッグイベントになりそうだった。
それを牽引しているのは、もちろん新しいお笑いを生み出し続けているホワイトブレンドの存在に他ならない。
そもそもこのイベントの目的は「お笑い界の底上げ」や「次世代を担うお笑い芸人の発掘」というものだった。
また主催者の一人である五反田のメディアでの発言によると、“お笑い”という日本が誇る文化を若い世代に根付かせるために、このイベントを立ち上げたということだった。
悦司も真幌も、このイベントの趣旨には大賛成だった。
しかし出演する立場からしてみると、これほどプレッシャーがかかるイベントはなかった。
高校生といえどお笑いの舞台に立つ以上、本格的なスキルとクオリティが求められることも理由の一つだが、それ以外にも高校生コンビとしては、現時点で名実ともにナンバー2の立場にいるということも、よりプレッシャーを感じる理由になっていた。
1次予選を間近に控えたある日の放課後、中庭のベンチに座っていた真幌は、いつになく機嫌が良さそうな顔をしていた。
「ご機嫌だな、真幌」
遅れてやってきた悦司の問いかけに、真幌は笑顔を見せた。
「あ、わかる?」
「いいことでもあったのか?」
「今日さ、クラスの子が話しかけてくれたんだ。今まで一回も話したことない子」
「すごいじゃないか。何を話したんだ?」
「『大会頑張って!』だって」
「応援か。ありがたいな」
「うん、すごく嬉しかった!」
悦司はクラスの全員がホワイトブレンドの応援をすると思っていたが、意外にも自分たちにも声をかけてくれる人がいたことに驚いていた。
――期待は力になる。
これまでクラスメイトの誰からも応援されたことがなかった真幌にとって、ほんの少しだけでも気にかけてもらえるということは、大きな力になっていた。
「予選さ、わたしも頑張るから、あんたも頑張ってよね」
「もちろん、全力で勝負に行くよ」
「あんたとわたしなら、ホワイトブレンドに勝てるはずだからさ」
「……そうか?」
「そうだよ。だってわたしたちの方が芸歴長いし」
「ほんの少しだけどな」
「人気はあっという間に抜かれちゃったけど……コンビの絆はわたしたちの方が深いから」
「ああ……そうだな」
真幌が相方として信じてくれている。それだけで悦司は、誰のどんな応援の言葉よりも力が湧いてきた。
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