第38話 沖田さんが生暖かい
「ただいま」
「おかえりなさませ」
ヒロを出迎えた沖田さんが生暖かい。
「桜子お嬢さんをお送りしましたか?」
「ああ、家の人に出迎えられてたよ」
「そうですか」
「ただいま梅子」
梅子をぎゅっとして梅子の頭に顔を埋めるヒロ。お日様の匂いがホッとする。
「夕方のお散歩は問題ありませんでしたよ。朝の散歩はこちらの屋敷が久しぶりだったのでマーキングなどで忙しかったのでしょう」
「そう」
梅子の頭を撫でる。笑顔でしっぽを振る梅子が可愛い。桜子みたいだ。
かまわれて大喜びの梅子がヒロの顔をベロベロと舐めまくる。
── ここは桜子と違うな。梅子の犬っぽくて可愛いところだ。
興奮がおさまった梅子はヒロに密着して顔をのぞき込んでくる。撫でて欲しいアピールだ。
── こういう期待に満ちた表情は桜子っぽいな、可愛いぞ梅子。
撫でてやれば、うっとりと目をつむり、ヒロに寄りかかって甘えてくる。
── 梅子は本当に可愛いな、桜子ともこんな風に寄り添いたいものだ。
その日の夕飯は赤飯だった。
── 絶対に猛禽類先輩たちから沖田さんに詳しく伝わっているな。常陸領の花火大会のことも筒抜けだったし。
ニコニコ顔の沖田さんに悪意は無い。ただいつも通りデリカシーが無いだけだ。
沖田さんは子供の頃からヒロ坊ちゃんの恋を見守ってきたのだ。でも思春期の中学生にお赤飯は、あんまりな仕打ちだ。
しかし動揺したら負けだと思うヒロは無表情で完食した。
以前から沖田さんはヒロに対して容赦無かった。ヒロが桜子にそっけない態度をとった日は…
『ヒロ坊ちゃんが桜子お嬢さんを大好きなのは誰が見ても明らかですのに』
そう言ってチクチク責められた。
『そんなんじゃないし…』
強がって嘘を吐けば
『この状況で、まだ自分の気持ちを隠せていると思っていらっしゃるのですか?ヒロ坊ちゃんアホなのですか?』
と追い討ちをかけてくるような使用人だ。
ヒロが無口で無表情でそっけない性格に育った原因は沖田さんかもしれない…。
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