第13話 朝のハンバーグは重い

「ねえ、えーくん、私えーくんのこと好き。大好き。私たち付き合っちゃおうよ。」


「え、でも…」


「いいじゃんいいじゃん!えーくんも私のこと好きでしょ?」


「え、ああ、まあ、好…」


「…ちゃん、ちょっと、おにーちゃん!」


あれ?柚葉?


「ほらおにーちゃん、早く起きないと遅刻するよ!」


「柚葉?」


「なに寝ぼけてんの。早く起きるっ!」


どうやらさっきのは夢だったらしい。俺としたことが、恥ずかしい夢を… 


「おにーちゃん昨日帰ってきてすぐ寝ちゃったじゃん。そんなに疲れてたの?」


昨日はどうやらいろいろあった疲れで帰って来るなりすぐ寝てしまったらしい。


「それと、昨日の晩ごはんせかっくおにーちゃんの分も作ってたのに余っちゃってるんだよっ。朝からしっかり食べてもらうからねっ!」


「へいへい。」


大きなあくびをしながら適当に答える。

着替えや洗顔などを済ませてリビングヘ行くと、これはまた豪勢な朝飯が並んでいる。


「柚葉さん、いったいこれは…?」


「だからさっき言ったでしょっ。昨日の晩ごはんの残り。昨日おにーちゃんが食べなかったせいで残ったんだからちゃんと食べて!」


だからって朝からハンバーグとエビピラフはかなりきついものがある。


「あのー、柚葉さん?今日の晩飯に回してもらうなんてことは…」


「ダメ!昨日のなんだからあんまり置いとくと腐っちゃうでしょ!」


「そうですか…」


言われるがままハンバーグを口へ運ぶ。


「ところでおにーちゃん、昨日病院寄ってくるって言ってなかった?診てもらって来たの?」


「あぁ、一応な。」


「で、どうだった?」


「いや、まあいろいろあって先生の話をちゃんと聞いてなかったというか聞けなかったというか…」


「なにそれっ!ゆずはほんとに心配してるのに、おにーちゃんがそんなんじゃどうしようもないじゃんっ。」


「いや、悪い。でも特に記憶に残ってることが無いってことは、そんなに重大なことは言ってなかったってことだろきっと。」


「はぁーほんとにもうおにーちゃんは。わかった、もう今度からゆずがおにーちゃんの病院付き添う。」


「いやいや、妹に付き添われて病院に行く兄がどこにいるんだよ。」


ってこのセリフ昨日もどこかで言った気がするぞ。


「そんなのどうだっていいから、今度はほんとについていくからねっ!」


そう言ってまたプクッとほっぺを膨らせる。俺お気に入りの怒ったポーズだ。怒られても病院ついてきてもこの顔見られるならまあいいか。


「ごちそうさま、うぅー、さすがに朝からハンバーグは重かった、トイレ行ってくる。」


「文句言わないのっ、もうっ!」


重い腹を抱えてトイレへ入る。今日はあまり清々しいトイレとはいかなさそうだ。



ジャーー


「はあ、まだお腹が重い。やっぱり朝からハンバーグはよろしくないよなあ。」


トイレを出て家を出ようとしたが、いつも棚に置いている鍵がない。玄関を見ると、鍵はかかっていて、柚葉の靴もない。俺が長いトイレに行っている間に柚葉はもう学校へ行ってしまったのか?このまま俺が出てしまうと鍵がかけられないので誰でも入り放題だ。さすがにそれは不用心すぎる。俺は急いで柚葉にメッセージを送る。


「今家出ようとしてるんだけど、お前鍵持って出た?」


返信はすぐに来た。


「え?おにーちゃんまだトイレだったの!?ゆずより先に家出たんだと思ってた。だから鍵はゆずが持って出ちゃった。」


どうやら俺のトイレが長すぎたせいで、先に家を出たんだと思われたらしい。たしかに今日は1時間近く入っていた気がする。そういえばスペアの鍵が靴箱に入っていたような…と思って見てみるが入っていない。今日に限って母さんが持って行ったのか。しかしいくらなんでも鍵を開けっぱなしで夕方まで家を空けるわけにもいかない。


「今日は学校サボるしかないか。」


駅で合流するはずだった美結に断りを入れる。


「今日ちょっと家出れなくなったから学校行けない。悪い。」


そうメッセージを送るとすぐに既読が付き、


「わかった。じゃあ私今からえーくんの家行ってもいい?」


と返信してきた。おいおい、なんでそうなるんだよ。


「美結までサボることないだろ。学校行った方がいいぞ。俺が言うのもなんだけど…」


そう送ると今度はこう返してきた。


「だってえーくんと一緒がいいもん。」


なっ、なんて可愛いことを…昨日告白された時の美結の顔が脳裏をよぎり、余計にドキッとしてしまった。


「わかった。じゃあ待ってる。鍵開けとくから。」


それだけ送ってケータイを閉じたが、どうも落ち着かない。


「部屋の掃除でもして待つか。」


こうして俺は生まれて初めて、誰に言われるでもなく自ら部屋を片付け始めた。

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