女子校探偵ホームズ〜僕と彼女を繋ぐ三つの暗号〜

七乃はふと

#1僕と彼女の初めての出会い

「君は短編を読み終えた」


 本から目を上げると、一人の美少女が座っていた。


「君は二十三回ページを巡ったところで本から目を離した。つまり短編一つを読み終えた。

  目を離さなかったということは集中していた。ということは大好きな作品。

 タイトルは『ボヘミアの醜聞』。

 何故タイトルが分かったのかって? 

 簡単さ。君の眼鏡のレンズに一瞬だけ映ったんだ」


 少女は一気に話すと「初歩的な事だよワトソンくん」と締めくくる。


「あの僕は――」


「君は私の相棒になったんだ。僕の事は《ホームズ》って呼んでくれたまえ」


 これが【金色の毛並みを持つ生意気な子猫】みたいなホームズと僕の初めての出会い。


 僕達は校内で起きる様々な事件を解決していく。


 その間に僕の中である想いが少しずつ大きくなっていたけれども、名探偵の彼女でも気付くことはなかった。


 探偵活動をして一年が過ぎたある日。彼女が入院した。


「えっ面会謝絶ですか」


  本人の希望なので、僕は仕方なく帰る事にした。


 面会謝絶と聞いて酷い容態かと一瞬思ったが、そんなことはない筈だ。


 入院した原因を思い出す。


 逃亡した連続下着切り裂き魔を僕とホームズで追跡していた時のことだ。


 犯人は陸上部のエースで、追いつくどころか徐々に距離を離されていく。


 そこでホームズが大胆な方法をとった。


 一階に降りた切り裂き魔に向かって、踊り場から十七段の階段を一気に飛び降りたのだ。


 切り裂き魔は驚いて動きを止めていたので、飛びかかって捕まえる事はできたのだが……。


 犯人に覆いかぶさったままホームズは動かない。


 見ると顔からひどい脂汗を流していた。


「痛いんですね」


「ううん。両足は全く痛くないよ」


「足が痛いなんて聞いてませんよ」


 飛び降りた彼女が両足で着地したとき、全体重が両足に乗ったに違いない。


「ちょ、ちょっとワトソンくん!」


「なるべく痛くはさせませんから。少し我慢して」


 連続切り裂き魔を駆けつけた先生に任せ、僕はホームズの両足に応急手当を施した。

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