第22話 魔術師の因子
ミラの研究室に5人——アイリス、アレックス、イリア、フランケ、マシューが集まっていた。
ルーナとジョシュアは眠っていたので、使用人に任せてある。
「——血液検査の結果を報告します。今回の調査対象は、アレックス様御家族、ハミルトン家、マシュー、公邸使用人、王立職業訓練学院の入学生とその関係者の合計80人分を分析しました」
5人は配られた紙を見ながらミラの話に耳を傾けていた。
「分析の結果、魔術才能に関与する『魔術因子』と考えられるものを3つ発見しました。その因子をそれぞれ因子A、因子B、因子Cと名付けます。まだ検体が少ないので予想ではありますが、因子を2つ所持している者は魔術の才能がある、と考えています。次の表をご覧ください——」
アイリスはミラの言う通りに次のページをめくる。
そこには、魔術因子別に分類された人たちの表が載っていた。
・グループ1: 因子ABC
アイリス
・グループ2: 因子AB
イリア、ミラ、フランケ
・グループ3: 因子BC
ルーナ、ハミルトン家3兄妹の父
・グループ4: 因子AC
ジョシュア、ハミルトン家3兄妹の母
・グループ5: 因子A
アレックス、カイル、クリス
・グループ6: 因子B
学院入学生3人
・グループ7: 因子C
マシュー
「——申し訳ありませんが、敬称など省略させていただきました。
表のグループ1〜4の人物に注目しください。
ご存知の通り、魔術才能を持つ人たちがこのグループに入っています。
ハミルトン家では魔術師の子孫が私たち以降に残らなかったことから、因子Cをもたないと魔術才能が遺伝しないと考えられます。
私はそれを検証するため、因子Cのみを持つマシューと子供を作ることにしました——」
「——え!?」
アイリスは説明の途中で驚きの声をあげた。
他の4人は平然としているので、アイリスはさらに驚く。
「アレックスとイリアも知ってたの?」
アイリスは左横に座る2人に問いかけると、2人とも頷いた。
「マシュー、いいの!?」
アイリスは後ろに座るマシューへ慌てて質問した。
「うん。ミラさんだから……」
マシューは少し顔を赤くしていた。
「マジか……よりにもよって……」
アイリスはそう呟きながら、前に立つミラを見ると……。
——こわっ!?
ミラはアイリスを睨んでいたので、アイリスは顔を真っ青にする。
「私に何か問題でも?」
「いえ……ミラさんが妊娠したら研究がすこし滞るのかなー、と思っただけです」
「あー、それは対策済みだから」
「そうですか……」
詳しく聞いてみたかったが、そういう雰囲気ではなかったのでアイリスは口をつぐんだ。
*
報告会が終わって廊下に出た後、アイリスはマシューに声をかけた。
「マシュー」
「何?」
アイリスの前を歩いていたマシューは振り返った。
「あの……ミラさんとどういう関係? 結婚の話なんて聞いてないけど?」
「結婚はしないよ。ミラさんは僕の魔術因子にしか興味はないから」
マシューは顔を曇らせた。
——そんな顔するってことは……マシューはミラさんのこと好きなんじゃ?
「え? 子供だけ作るってこと?」
「そんな感じかな。ミラさんから口外厳禁って言われてるから、あまり詳しく聞かれても言えないけど……。ごめんね」
「マシューはそれでいいの?」
「もちろん。ミラさんの役に立ちたいから。これからもずっと支えていきたい、と思ってる」
マシューは微笑んだ。
「そっか……研究頑張ってね」
「うん。じゃあ、僕は自分の研究室へ戻るよ」
アイリスは、マシューの少し寂しそうな背中を見送った。
「アイリス、僕たちも子供達のところへ行こう」
「うん……」
アイリスはアレックスと一緒に子供部屋へ向かった。
*
子供部屋。
「しばらく起きなさそうだね」
アレックスは並んでベッドに眠るルーナとジョシュアを愛おしそうに見つめていた。
「そうだね」
アイリスは浮かない顔で頷いた。
「圭人、どうしたの?」
アレックスはアイリスの腰に両手を回し、正面から顔を覗き込む。
「マシューのことでちょっと……」
「子供を作ることかい?」
「うん。ミラさんは研究のことしか考えてなくて……マシューの気持ちをちゃんと理解してるのかなって……」
アレックスは優しくアイリスを抱きしめた。
「大丈夫。ミラはマシューのことをちゃんと考えてるから」
「え?」
「そのうちわかるよ」
アレックスはアイリスの額にキスをした。
*
報告会があったその日の夜。
アイリスとイリアの寝室。
アイリスはルーナを、イリアはジョシュアをあやしながらソファーに座っていた。
「最近、アレックスは仕事忙しそうだね。今日も夕食食べた後、王都に行っちゃったし。1週間に2回くらいしか一緒に寝てないかも」
「そうね。最近、王都で寝泊まりすることが多いわね」
「イリアも忙しい? 最近、よく体調崩してるみたいだから」
「大丈夫よ。こうやって圭人が一緒にいてくれるから」
「そっか。この子たちの面倒は無理にみなくていいからね? いつも手伝ってくれて悪いな、と思ってるから」
「好きで手伝ってるの。とても嬉しいのよ。圭人の子供は私の子供みたいなものだから」
イリアはジョシュアの柔らかい頬を指で撫でる。
「圭人のおかげでハミルトン家の願いが叶ったんですもの。本当にありがとう、圭人」
「イリアが喜んでくれて嬉しいよ」
アイリスはイリアとキスをした。
「この子たちはしばらく起きないだろうから、2人でゆっくりしようか」
「うん」
2人は子供達をベッドに寝かせた後、ベッドで愛し合った。
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