第14話 アルゴス

 カルディア達が帰ってきたあと、入れ違いにヒロも入浴する事にした。逆上のぼせたイオを担ぎながら慌てて帰ってたカルディア達には驚いたが、大事ないようであったので任せるこたにした。


 衣服を脱ぎ浴室へ、しかし刀は右手に持ったままであった。如何なる時も襲撃に備えよ、それが爺ことネーレウスの教えだった。


「ふー」湯船に浸かると体の疲れが一気に吹き飛んでいくような感じであった。こんなに安らいだのは何日ぶりだろうか。ヒロは目を閉じて夢心地になっていた。



 川流れる堤防の上を歩いている。

 隣には、十六、七位の少女。


「ねえねえ、ヒロ○、隣のクラスの男子があなたに告白するって宣言していたみたいよ」何だか嬉しそうに少女は話を続ける。「いいな。ヒロ○はいつもモテモテで、私なんて告白されたことなんてないし……、でも全部断ってるよね。どうして?」


「えっ、私そんなつもりは……」ヒロ○は、言葉につまる。


「ヒロ○の家、厳しそうだもんね。でも良いなぁ。私も彼氏欲しいわ……」



 「!!」風呂の向こうの繁みの中に気配を感じ刀を構えた。すでにヒロは正気に戻っている。


「くくく、お前がヒロか……、まさか驚いたぞ」暗闇の中から不気味な笑い声がする。


「何者だ!」


「聞いていないのか?オリオン暗殺の為に、もう一人アサシンが合流すると。俺がそのアサシン、アルゴスだ」暗闇からゆっくりと男が姿を表した。


「アルゴス……、だと?」その名前をヒロは聞いた事があった。たしか大蛇使いのアルゴス、大蛇を使い魔に従え、彼のターゲットとなったものは陰湿な最後を迎えると。初めて見るその顔も噂通りの陰湿なものであった。彼の絡み付く蛇のような嫌悪感を感じる視線がヒロの体に絡みついてくる。ヒロは背筋が寒くなった。


「オリオンは見つけたのか?」アルゴスが質問してくる。


「ああ、見つけた……、しかし、本当に俺達の刺殺対象はあの男なのか?」ヒロは体が冷えないように、もう一度湯船に体を沈める。


「ああ、そうだ。なんだお前はオリオンと接触したのか?」アンゴスが呆れるような声をあげた。刺殺対象とは出来るだけ関わらない。それがアサシンの常識なのだから。


「俺には、あのオリオンという男が暗殺されるような者には思えないのだ」


「何を馬鹿なことをいっている。それを判断するのはお前ではない。俺達アサシンは命じられるままに殺すのだ。里の長の命に逆らうのであれば、お前も刺殺の対象になるのだ。そう、カルディアのように……」吐き捨てるように言った。


「な、なに、カルディアがどうしたのだ?!」ヒロは驚きのあまりアルゴスの顔を睨み付けた。


「そうか、お前はネーレウスの弟子だったな。カルディアとは顔馴染みというわけだ。あの女は長の命に逆らい刺殺の対象となっている」


「なんだって!?」そんな事は一言も聞いていない。たしかオリオン暗殺の為に自分のパートナーとして追いかけてきたと言っていたはずだった。


「オリオンの暗殺とカルディアの抹殺、それが俺の仕事だ」アルゴスはヒロを練っとりとした視線で舐め回すように見ている。


「カルディアは一体何をしたんだ?」ヒロは唖然とした顔をしてアルゴスを見ている。


「なに、せっかく俺が夫として見初めてやろうとしたのに、それを拒んで里から逃げ出したのだ」舌舐めずりをするように唇を舐める。それはまるで蛇のようでたった。


「に、逃げ出した……だと」その言葉を聞いてヒロは納得した。どおりでアサシンが支給される筈の金銭も持たずにヒロ達の前に彼女は現れたのだ。行く宛のない彼女はヒロの向かったブランドーの街を目指して来たのであろう。


「まあ、殺す前に一度、あの体を味わっておくのも趣だがな」アルゴスはまた、舌舐めずりをした。


「貴様!!」ヒロは刀を再び握りしめる。


「何を熱くなっているのだ」そういうとアルゴスは気味悪い声で笑った。「もしも、顔馴染みなどというくだらなことでカルディアをかくまったり、オリオンの暗殺に失敗すれば、お前も刺殺対象となる。気を引き締めておけよ」そう言い残すとアルゴスの気配が消えた。


「くっ!」ヒロは湯船に向かって力一杯拳を叩き込んだ。

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