第5話 使い魔

 ヒロが宿泊していた物置の戸の隙間から朝日の光が差し込んできた。その光が丁度ヒロの顔に直撃する形となっていた。眩しいその光に起こされる形となった。


「う、ううん」眠い目を右手で擦りながら体を起こした。ヒロは基本的に朝は弱いほうであった。ただ、訓練の過程で殺気を感じた時にはすぐに目を覚ますように教えられている。そして、どんな場所でも、どんな短い時間でも熟睡できるように体へ叩き込まれている。


「おはようございます」可愛らしい女の子達の声がする。


「ああ、おはよう・・・・・・、へっ!」ヒロは驚いて少し後ずさりする。目の前には黄色と赤色の髪をした少女が二人座っている。そして、ヒロの横には青い髪の少女が丸くなって眠っている。


「昨日は、私達を助けてくださってありがとうございましたっちゃ」黄色の髪の少女が頭を下げ、それに合わせるように赤色の髪の少女も同じように頭を下げた。もう一人の青色の髪の少女が相変わらず眠っている。


「昨日?!・・・・・・だって?」ヒロは昨日の記憶を辿っていくが、彼女達と会話を交わした記憶は無かった。しかし、ふと彼女達の髪の色を見て思い当たる節があった。


「もしかして、あの仔犬・・・・・・・か!?」ヒロの思惑通り、彼女達は昨日助けた仔犬が変身した姿であった。それぞれ、黄色の髪の少女がアウラ、赤色の髪がカカ、そして青色の髪の少女がイオという名前だそうである。


 彼女達は母犬と一緒に幸せに暮らしていたそうだ。しかしある日、突然狩りに来た人間達によって目の前で母犬は殺害された。母犬はこの三匹を助ける為に身を挺したそうだ。彼女達は三匹で協力して命からがら逃げだし、この集落の近くに隠れていた時に、昨日の男に捕まってしまい見世物のような扱いをうけていた。何度か逃げ出そうと試みてみたのだが、昨晩ヒロが外した首輪に魔封じの呪いがかけられて本来の彼女達の力を使う事が出来ずにいたそうであった。


「昨日は助けて頂いたうえに、食事まで頂いて・・・・・・あんなに親切にして頂いたのは初めてでしたっちゃ」アウラは嬉しそうに礼を言う。 

 

 隣でカカが同調するように何度も頷いている。イオはまだ眠ったままであった。


「そうか、それは良かった。もうお前達は自由なのだから、これからはお前達の好きなように生きるといいよ」昨日は、仔犬を放置するようで可哀想な気持ちになったが、こうして人間の姿に変化へんげする事ができるのであれば何とか生きていくことも出来るであろうと少しだけ安心した。


「いいえ、出来れば私達は貴方のしもべとしてこの身をささげたいと思うのですちゃ」アウラは自分の胸元を握りしめて、恥ずかしそうに呟いた。その隣でカカが激しく同意どうい意思いしを示すかのように頷いている。イオが相変わらず眠っている。


「いや、僕って……そんなたったあれだけの事で……」ヒロは恐縮するかのように両腕を振って辞退の気持ちを表した。


「いいえ、私達は母を亡くしてから誰にも助けられることも無く人間と云うものを恨んで生きてきましたっちゃ。でも、あなた様の温かさに触れて私達はこの身を一生あなた様に捧げると、昨日の夜三匹で誓いを立てたのですっちゃ」アウラは瞳に薄っすらと涙を浮かべて懇願するように上目使いでヒロの顔を見上げた。それに合わせるかのように、カカもヒロの顔を見上げる。イオはまだ眠っている。


「でも・・・・・・・、そんな、一生だなんて・・・・・・・」ヒロはその一途に見つめる瞳を見ているのが恥ずかしくなって、目を横に背けながら顔を赤らめた。


「昔から犬は三日飼えば三年恩を忘れないと言いますが、昨日のあなた様から頂いたお情けは私達にとってはそれ以上の恩義でしたっちゃ」アウラはもう号泣しそうな顔をしている。


「わ、解かった!解かったよ……。それでは俺には丁度、使い魔がいないからお前達が俺の使い魔になっておくれ」ヒロは言いながら人差し指で頬を掻いた。


「有難うございます!ご主人様!」アウラとカカは嬉しそうに歓声を上げた。その隣でイオがやっと目を覚ましたようであった。大きく伸びをしてから「あっ、ご主人様ダニ」彼女の寝起きの第一声がこれであった。イオはヒロの腕に絡みつくように抱き着いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。その、なんだ、ご主人様という呼び方は止めてくれ。俺は出来ればお前達と主従関係では無くて……、友達として接してくれないか?その方が……、俺は嬉しい」ヒロは少し恥ずかしそうは表情をアウラ達に見せた。考えてみればヒロには、幼なじみのカルディア以外に友達といえる存在は居なかった。


「それでは、ご主人様の事をどのようにお呼びすれば良いか教えてくださいっちゃ」彼女達は困惑の表情を見せる。


「そうだな……、俺の事は普通にヒロでいいよ。アウラ、カカ、それとイオ」ヒロのその言葉を聞いて、三人の顔がバラのつぼみが開いたように輝いた。

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