第2話 記 憶
ヒロはネーレイウスの家で二人で暮らしている。
彼らの住まいは修練場からはすぐ近くの場所にあった。ネーレイウスはヒロとカルディアの二人が術式の訓練をしている間に夕食の準備をしていたようである。
「ヒロ、今日は疲れたであろう。飯を食べてから風呂に入ってもう休むといい」ネーレイウスはヒロの茶碗に米を注ぐと差し出した。ヒロは無言のまま、それを受け取った。術式が上手く出来なかった事が悔しいようであった。
「人には、向き不向きがある、それは当然の事だ。だからといってそれをやらなければ何も出来ないままなのだ。お前がカルディアに劣っている訳ではない。お前の格闘術はそれなりの域には達している。お前の長所を伸ばして短所を補うのだ」いつもは口数の少ないヒロの師匠ではあるが、それなりに慰めているようであった。
「……爺、ありがとう」そう言いながらヒロは頬の涙を誤魔化すように顔を擦ると、食事を口の中に流し込んだ。少し塩加減がキツイような気がした。
短い時間で食事を済ませたヒロは、風呂に入った。
昼間の訓練のせいで体のあちらこちらが筋肉が悲鳴をあげている。
ヒロはそろそろ十五の歳を迎えるのだが筋肉の着きにくい体質であるのか腕がなかなか太くならない。下手をすればカルディアのほうが肉付きがいいくらいであった。それはヒロのコンプレックスでもあった。
少し年上の里の青年達の腕を羨望の眼差しで見いってしまう自分が嫌であった。試しに力こぶを作ってみるが、その貧弱な膨らみにため息が出る。
体を湯で綺麗に流してから湯船の中に体を浸からせる。
ちょうど良い湯加減であった。それは昼間の疲れを一気に癒してくれるような気がした。
ゆっくりと瞳を閉じると若干の睡魔に襲われる。
そして、しばらくすると昔の思い出が頭の中を過っていった。
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ヒロは、機械仕掛けで走る箱の中にいた。それは馬車とは違い振動が少なく快適に走っていく。
ヒロのその隣には、見覚えのある女が座っている。その女がヒロとどういう関係なのであるかは思い出す事ができなかった。ただ、彼女の事を思い出すと心が温かく切ない気持ちになって、胸が締め付けられる感覚になるのであった。
箱の窓から外を覗くと同じような機械の箱が走っていく。その光景は今のヒロが暮らす里とは全く異質のものであった。
「!?」
突然鳴り響く、大きな獣のような声。前方を見ると機械の箱がヒロ達の乗る箱に向かって一直線に飛び込んできた。
「キャー!」「ウワー!」箱の中に悲鳴が響き渡った。
そして気が付いた時には森の中にヒロは一人うずくまっていた。先ほどまでとは明らかに違う景色。
木々に囲まれた場所、辺りにはあの女も誰もいない。
あの女がいないかとあちらこちらを探索してみるが一向にその姿は見当たらない。ヒロは途方に暮れてその場に経たり込んでしまう。
暫くすると何かの足音が聞こえてくる。ヒロはゆっくりと頭を上げると音の方向を見つめた。
ザクッ、ザクッ、ザクッ
それは、大きな馬が地面を踏みしめる音であった。その馬の上には鎧を身に纏った大男と、二人の従者の姿であった。
「ん?子供か、こんな所で何をしておる?」先頭の男が馬を降りて声をかけてくる。
ヒロは、怖さのあまり震えている。
「王よ、先に進まなければなりません。それに我々の姿を見られたからにはその子供を」従者の一人が刀の
「そうか、残念だが
「サヨナラだ。小僧」従者はそう言うと刀を振り上げた。
ヒロは恐怖のあまり目を思いっきり
「うっ!」目の前の従者が刀を手にしたまま崩れ落ちた。
「えっ!?」何が起きたのか理解出来ずにヒロは唖然としている。
「ギャ!」馬の上の従者の首が血しぶきを上げて跳んだ。
「ひ、ひー!」先頭にいた男が腰を抜かした。その目の前を音も立てずに人影が舞い降りた。
「き、貴様はいったい!」男の問いかけに答える事もなく、彼は手に持った刃で男の喉を切り裂いた。男は悲鳴を上げる事もなくその場に崩れた。
ヒロは余りにも無惨なに光景を目にしてその場で気を失ってしまったようであった。
男を殺害した人影は、ヒロの体をゆっくりと抱えるとその場から姿を消した。
それがヒロとネーレイウスとの出会いであった。ネーレイウスの一族は
ネーレイウスと一緒にこの村で暮らす事となったヒロも暗殺者への道しか選択肢は無くなっていた。
そして数年前に現役を退いたネーレイウスは、里から離れたこの場所で、ヒロと共に人と縁を切るような生活を続けている。
「おい!ヒロ。長いが
「あ、ああ……、大丈夫だ」ヒロは返答をすると湯船から上がり衣服を着用した。長い髪から布で水分を拭き取ると後ろに束ねた。
正直云うと暫く眠っていたような気がする。ヒロの頬は真っ赤に染まっていた。
そのまま布団に潜り込むとヒロは深い眠りについた。
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