5.7

 二日後。ジルとロベルト一行は、同盟後初めてとなる探索へ出かけていた。


 向かうはいつもの岩石地帯。ジルたちにとっては二週間ぶりの探索だ。


 二週間という時間があれば、昏獣が新たに突然変異で進化し、その行動範囲や習性が一変していてもおかしくはない。つまり、いつもの探索地ではあるが勝手知ったる場所だと思っていては、確実に痛い目を見ることになるだろう。


 そのため探索ルートの決定と行動の指揮は、つい五日前にもこの地で探索を行っていたロベルトに一任してある。


 岩石地帯に到着後、一行は二日前に行った打ち合わせ通り、トンテとロベルトのペアを頂点として、一〇メートル右斜め後方をニックとニーナのペア、一〇メートル左斜め後方をジルとセリカのペアで三角形の陣形を作り、早速探索を開始した。


 この陣形の特徴は、索敵能力の高さにある。


 耳と鼻が利き昏獣の存在をいち早く感知できるトンテを軸に、それぞれのペアが一二〇度の方位を警戒することで、全方位を見落としなく索敵することが可能となる。


 そして、いずれかのペアが昏獣を発見した場合、即座に無線で情報の共有。ロベルトによる指揮の元、昏獣に気付かれる前に進路の変更や待機、逃走を行うという寸法だ。


 さらにこの索敵能力の高さは、マナの発見率にも直結する。


 以前までは三人一組、昏獣の襲撃に備えて一つに固まりながら、細いペンで線を描くように探索を行っていた。だが今は三つのペアを作ることでペンの点が面となり、描ける線ははるかに太くなった。面積だけなら倍以上は広がったろう。


 そしてこの陣形における人員の配置は、昏獣との戦闘に関しても考慮されている。


 まずはジルとセリカ。


 セリカはスナイパーライフルを用いて中・長距離での戦いは得意だが、昏獣に近くまで接近されるとかなり不利だ。そこをジルがカバーする。


 次はニックとニーナ。


 ニーナが所持している武器は、セリカの持つものより一回り小さい対昏獣スナイパーライフル。対してニックが所持している武器は、ポンプアクション式の対昏獣ショットガン。


 ショットガンは中・長距離ではあまり役に立たず、強靭な皮膚や甲殻を持っている昏獣相手には若干威力が心もとない。だがスナイパーライフルよりも小回りが利き、散弾やスラッグ弾を切り替えられ連射によって制圧力もあり、近距離で有用な銃だ。これでニーナをニックがカバーできる。


 最後はロベルトとトンテ。


 ロベルトが所持している武器は、リボルバー式の対昏獣グレネードランチャー。弾が嵩張るため持ち運べる弾数が少なく命中精度が低いという欠点はあるが、榴弾、焼夷弾、散弾、射出用杭缶など扱える弾種が豊富で、様々な状況に対応することが可能。威力が高く攻撃範囲も広いため、大型や群れを成す昏獣と対峙した際に真価が発揮される。


 ただ大きい威力と弾の切り替えの面で小回りが利かないため、そこを杭缶を持った軽快なトンテがカバーする。杭缶が通用し難い相手が来ても、両翼のセリカとニーナがライフルで援護を行える。


 昏獣と戦わないに越したことはないが、例え戦闘になっても攻守ともに隙がなく、負傷者が出たとしても両翼の仲間が助けに入れる、完璧な陣形だとジルは思っていた。


 二つの探索者チームが同盟を組み、一+一が二ではなく、三にも四にもなっている。まだ同盟を組んでから何かしらの恩恵を受けたわけではないが、皆が同盟の成功を既に感じていた。


 それでもジルたちは油断せず慎重に探索を行い、時折マナを発見しながら岩石地帯を進むこと、約三時間。


 そろそろ休息を挟もうかというところで、突然右方から緊迫感の漂うニーナの声が響き渡った。

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