5.3
同盟。それは、『協力してマナを集めましょう』といった単純で気軽なものではない。
同盟を組めば――探索者の数が増えれば、できることの幅が広がり、探索効率の向上を図れる。携行できる装備の量と種類が増え環境や昏獣に対する対応力も高まり、危険だが他の探索者が足を踏み入れておらず、未収穫のマナが多く存在する探索地へも赴けるだろう。
しかし、当たり前だが同盟にはメリットだけなく、デメリットも多く存在する。
その最たるものは、やはり収穫が山分けになることだ。
同盟の条件にもよるが、どれほどマナが集まろうとも最終的な成果は折半となる。そのため一度の探索で今までの倍はマナを集めなければならない。
だが連携がうまく取れず、同盟前より探索の効率が落ちてしまう可能性は高い。それどころか、連携不足による事故で死人が出る場合もあるだろう。
しかし、同盟を組むに際して本当に危惧すべきは、これらのデメリットではない。
――裏切りだ。
運良く高純度で巨大なマナを発見してしまった場合、欲に目が眩み同盟者を皆殺しにしてマナを独占しようと相手が考える可能性がある。強大な昏獣に襲われ逃げられないと分かるな否や、足を撃ち抜かれ動けなくされ、囮にされてしまうかもしれない。
アヴァロンがこの裏切りを知れば、間違いなく裏切り者に制裁を下すだろう。だが事件が起こるのは昏獣が跋扈する庇護居住地の外。目撃者はおらず、証拠となる死体はすぐに昏獣の胃袋へと収まり隠滅されるため、裏切りが知られる心配がない。
言葉は悪いが、最初に裏切った者の勝ちとも言える。
この裏切りという虞がある故に、同盟を組もうという提案は『協力してマナを集めましょう』ではなく、『あなたを信じて命を預けます。代わりに私を信じて命を預けてください』という最大級の覚悟と信頼の表れなのだ。
ニックだけではなく、ニーナも同盟のことは考えていたのだろう。ロベルトは突然の提案に驚いているが、二人は真剣な面持ちでジルの返答を待っていた。
ジルも同盟には賛成だ。それでも仲間はどうかと目を向けると、セリカもトンテも目を合わせただけで首肯を返してくれた。
ジルも二人に頷き返し、ニックに向き直る。
「俺たちも賛成だよ。是非、あんたたちと同盟を組みたい」
常に表情の硬いニックの顔が、少しだけほころんだ。
「ありがとう、ジル。……親父も、異存はないよな?」
「……あぁ。勿論だとも。ジル君たちが同盟を組んでくれるならとても心強い。それに、今までは自分のためにマナを集めているようなもので、あまり乗り気ではなかったんだ。でもメイちゃんのためだと思えば、断然やる気も出るってものさ」
ロベルトはそう言って、ジルに右手を差し出した。
「ジル君。これからよろしく頼むよ。精一杯、君たちの助けになろう。その代わりに、もし僕たちが危機に瀕したら……僕のことはいい。それでもニックとニーナだけは、どうか助けてやってくれ」
後半の内容を聞き、ニックとニーナは非難の声を上げる。だがロベルトは言葉を撤回しようとはせず、強い覚悟の籠った眼差しでジルのことを見つめていた。
ジルはその覚悟に敬意を表し、ロベルトの手を強く握り返す。
「ありがとう、ロベルト。約束する。でも、あんただけ見殺しにするような真似はしないさ。例え昏獣に丸呑みにされても、腹掻っ捌いて助け出してみせるよ」
新たな同盟が生まれた瞬間だった。
同盟が決まったとなれば、話し合うことは多い。
だが今は、新たな同盟の結成を祝う時。ジルとロベルトは互いにホットミールで手にした食糧を持ち寄り、細やかは宴を開いたのだった。
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