第75話 揺れる心 十

  ※ ※ ※ ※

「お待たせしました、和紀さん。」

「いえいえ。それで話っていうのは…。」

またもやの理沙に関する既視感に襲われながら、和紀はそう恵麻に訊く。

 「そうですね。実は私、今まで和紀さんに隠していたことがありまして…。」

『やっぱりそうか。』

和紀は心の中でそう考えるが、それを態度には表さないで恵麻の語りを聞く。

 「…でもその話をする前に、私から和紀さんにお願いがあります。

 …私たち、今日で別れません?」

「えっ、それは何で…?」

恵麻の口からは、予想外の台詞が出てくる。

 「…実は私、和紀さんのこと、前からよく知っているんです。…いや知っているっていうのは正確でないかもしれません。でも…、」

 『もしかして、もしかして…。』

そう思いだした和紀は恵麻の発言を遮り、恵麻に質問する。

 「あの…すみません。恵麻さん、もしかしてあなたは…、『南沢恵麻さん』じゃありませんか?」

 すると恵麻は何かを納得したかのような表情をし、和紀にこう告げる。

 「…はい。私は、南沢恵麻です。」

 「やっぱりそうだったんですね…。

 ということは恵麻さん、あなたは僕と南沢理沙、理沙とのことも知っている、ってことですか?」

「…はい、和紀さん。」

「…では伺います。あなたは…、理沙の妹さんなんですか?」

 それを聞いた恵麻は一瞬ためらったような表情をするが、その後少し笑顔になる。

 「それは違います、和紀さん。少し勘違いされてるようですね。」

「えっ…!?」

「では今から、私の知っている限りのこと、和紀さんに全部話しますね。

 実は、南沢理沙さんは…、

 『私の亡くなった姉の友達』なんです。」

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