第735話 居残り

 バルドゥーイン殿下とエデュアール殿下が部屋へと戻り、ようやく夕食はお開きとなった。

 俺も拠点に戻って、お布団にル〇ンダイブを決めようかと思っていたのだが、アンブロージョ様に襟首を掴まれて引き留められてしまった。


 ホフデン男爵領での出来事について、まだ聞き足りないところがあるらしい。

 てか、それは夕食の席で聞けば良かったんじゃないのかなぁ。


 バルドゥーイン殿下とエデュアール殿下のピリピリした感じとか、上手く取りなしてくれると思っていたのに……。


「大公という立場は色々と微妙なのだよ」

「それって、王位継承絡みですか?」

「そうだ。大公など少々規模の大きな貴族でしかないのだが、なまじ王家との血筋が近いだけに色々と憶測されたりするのだよ」


 つまり、アンブロージョ様がバルドゥーイン殿下の肩を持てば、エデュアール殿下からディオニージ殿下を支持しているのではないかと思われ、エデュアール殿下の肩を持てば、バルドゥーイン殿下にエデュアール殿下を支持していると思われかねないという訳だ。


 この屋敷での出来事だって、どこからどんな風に伝わっていくか分からない。

 守りが固い場所ほど、漏れた時にはおかしな形で伝わっていくものらしい。


「でも、バルドゥーイン殿下は弟のディオニージ殿下を支持している訳じゃなく、三人横並びだと考えていらっしゃるみたいですよ」

「本当に、そう考えているのであれば、この国の未来は明るいのかもしれんな」

「俺は、バルドゥーイン殿下に次の王様になってもらいたいですけど……」

「まぁ、そう思っている者も多いようだが、強硬に反対する者も居るらしいから、簡単ではないな」

「アンブロージョ様は、三人の中では、どなたが良いと考えていらっしゃるのですか?」

「大公という立場上、軽々しく口にすることはできん……と言いたいところだが、実のところ決めかねている」


 アンブロージョ様は、誰かの派閥に属している訳ではないので、誰が次の国王になったところで、何か恩恵を受けたりする訳ではないそうだ。

 利害関係を持たない者にとっては、やはり三人は横並びの状態で判断を下しにくいようだ。


「先程、エデュアール殿下の派閥内部の話題になりましたが、民衆を軽んじて、搾取しようとする領主は他の派閥にもいるのでしょうか?」

「さて、ワシは派閥争いの外にいる人間だから、そうした事情に疎いが、今回のホフデン男爵の殺害やグロブラス領で反貴族派の襲撃が相次いだ件を考えれば、少なからず、そうした考えを持つ者が居るのであろう」


 俺自身、どの貴族が誰の派閥といった裏事情を全く把握していない。

 バルドゥーイン殿下の弟、ディオニージ殿下を支持している人の中には、平民を軽んじる貴族はいてほしくないのだが、実情がどうなっているのか見当も付かない。


「何の情報も持っていない状態で、派閥争いに巻き込まれるのは恐ろしいですね」

「それならば、近付かないでおくことだな」

「近付きたくなくても、向こうから寄ってくる場合には、どう対処すれば良いのでしょうか」

「そうだな、エルメール卿の場合は、どこの派閥でも抱き込みたいと思っているだろう。だとすれば、信頼できる人間から情報を得るしかなかろうな」

「信頼できる人ですか……難しいですね」

「そうか? エルメール卿の知る人物にも、そうした事情に明るい者はいるはずだぞ」

「えっ、俺の知っている人にですか?」


 真っ先に頭に浮かんだのは、アンブリス・エスカランテ王国騎士団長だ。

 王都で行われた『巣立ちの儀』の警備を共に行った時には、毎日のように顔を合わせていた。


 騎士団長という役職上、そうした派閥の事情については詳しいはずだが……騎士団長であるがゆえに話せないことも多いような気がする。


「アンブリスの他にも居るのではないか?」

「他の王都の知り合いとなると……」


 次に頭に浮かんだのはオラシオだが、騎士見習いの立場では貴族の派閥相関図なんて把握していないだろう。

 オラシオ繋がりでルベーロの顔が頭に浮かんだが、彼もまた平民出身だから、いくら情報通といっても貴族の事情については把握していないはずだ。


「ラガート家の者が、王都に滞在しておるのではないのか?」

「あっ! カーティス様か」


 ラガート子爵家の次男カーティス様は、まだ王都の学院に在籍している。

 次期国王争いに対しては中立の立場を貫くラガート家の次男だから、どこの派閥にも属していないはずだ。


 地方の小貴族の次男程度では、普通なら派閥の裏側など知らないだろうが、第六王子のファビアン殿下とは親友のような関係だったし、意外に裏事情にも精通していそうな気がする。


「フレデリックの息子ならば、抜け目なく活動していよう。休みの日にでも訪ねて、色々話を聞いてくれば、貴族の相関関係についての知識を補えるのではないか?」

「確かに、カーティス様ならば、信頼できますね」


 フレデリック・ラガート子爵は、俺の故郷アツーカ村を含めた領地を治め、貧困や貧富の格差是正についても積極的に取り組んでいる。

 子爵という位だが、王族に対しても物申す権利を有しているそうで、それゆえに中立という立場に拘っていた。


 長男のジョシュア様も次男のカーティス様も、タイプは違えども有能な人物だと認識している。

 休日を一日潰してでも、尋ねる価値はありそうだ。


「アンブロージョ様、貴族の家を訪問する時には、何か手土産とか持っていくものなのでしょうか?」

「自分よりも位の高い家を訪れる場合には、簡単な手土産を持っていくが、エルメール卿の場合は必要無いだろう」

「えっ、どうしてですか?」

「アーティファクトやダンジョンの話を聞いてみたいと思う者は、それこそ枚挙に暇がないほどだと思うぞ」

「なるほど……」


 もう意識せずに普段から活用しているが、先史時代のスマホやタブレットは貴重なアーティファクトであり、貴族といえども目にしたことのある者は限られている。

 アーティファクトの実物を見て、発見者である俺から話を聞けるとなれば、殆どの家が歓迎してくれるはずだ。


「でも、何か手土産も考えておきます」

「そうだな、親しき間であっても、心遣いは大切だからな」


 一般的な貴族の家への訪問手順を教えてもらい、ホフデン男爵領での騒動を詳しく話していたら、すっかり遅くなってしまい、この晩は大公家の屋敷に泊まっていくことになった。

 前の晩は、眠気に負けて泊まるという決断をしてしまったが、泊まるということは、また朝食で王族と同席するということだ。


「おはようございます、バルドゥーイン殿下」

「ニャンゴ、拠点に帰ったのではなかったのか?」

「アンブロージョ様と話し込んでいて、遅くなってしまい、泊まらせていただきました」

「そうか、それではホフデン男爵領での経緯は、改めて私から説明する必要は無いな」

「俺の知る限りのことはお伝えしましたので、大丈夫かと……」


 今朝はエデュアール殿下に配慮して、ホフデン家の三人は、別室で朝食を取っているそうだ。

 朝からバルナルベスの顔を眺めながら、食事なんかしたくないから助かった。


 そのバルナルベスについて、エデュアール殿下が意外な申し出をした。


「兄上、王都への帰り道、バルナルベスを私の馬車に乗せて行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「何か考えがあるのだな?」

「考えというか、もう少し掘り下げてバルナルベスの話を聞いてみたいと思いまして……」

「構わんが、不測の事態が起こらないように、警備は万全に整えておくのだぞ」

「はい、かしこまりました」


 昨日の今日では動きは無いかと思ったのだが、三人の次期国王候補の中では、一番積極的なエデュアール殿下だけあって、さっそく行動するようだ。

 これは、盗聴要員として王都まで連れて行かれるかと思ったのだが、エデュアール殿下がバルドゥーイン殿下の近衛騎士を一人借りたいと言い出した。


 馬車の内部での話を自分の口から説明するよりも、客観的に報告できるだろうという理由だが、猜疑心の強いエデュアール殿下らしい考え方だとも感じた。

 どうせ疑われるならば、最初からオープンにしてしまおうということなのだろう。


 何にしても、バルドゥーイン殿下の警護は旧王都に戻るまでという話だったので、ここで俺はお役御免だ。

 チャリオットのみんなは発掘現場に行ってるだろうし、俺は拠点に戻って二度寝しちゃおうかにゃぁ。

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