第409話 当たり物件
冒険者たちの我慢が限界に達したようだ。
勝手な発掘には待ったが掛けられていたが、既に連絡通路も居住区も工事は終了している状態で、力づくでも発掘を始めると言われればギルドも折れるしかない。
連絡通路の拡張工事などには、ギルドから日当が支払われていたそうだが、みんな土木工事がやりたくてダンジョンに潜っている訳ではない。
一攫千金の夢が手の届くところに埋まっているのに、駄目だと言われれば反発するのも当然だろう。
そもそも、旧王都の発展はダンジョンに挑んだ冒険者によって支えられてきたと言っても過言ではない。
冒険者がいるからギルドという組織が成り立つ訳で、その冒険者から総スカンを食らったらギルドは存在意義を失ってしまう。
そこで、発掘開始は認めるが、落盤などの危険が生じそうになった時にはギルドの権限でそれ以上の発掘を一時ストップすることになったらしい。
という訳で、俺達チャリオットも隣の建物を確保するための発掘を進めることになった。
スマホの地図アプリによって、隣接する建物もかなりの大きさであることが分かっている。
外観の写真まで表示されていて、商業施設であるのは間違いなさそうだが、何の店なのかまでは分からない。
隣の建物までの発掘は、今調査を行っている建物の北西の出入口から行う。
他の冒険者たちがスタートする場所から比べれば、遥かに近い……というか五メートルも掘れば建物に辿り着くだろうし、もう十メートルも掘れば出入口が見つかるだろう。
学術調査隊への同行はライオスとシューレが行い、残りのみんなで隣の建物までの掘削を行った。
セルージョが俺が空属性魔法で作った超振動ブレードで土を崩し、ガドと兄貴が丸める。
それをレイラも一緒になって、俺が空属性魔法で作ったスロープに載せると、コロコロとこちらの建物の中へまで転がる。
作業中の周囲の警戒は、俺とミリアムの仕事だ。
「上からフキヤグモが来るわ」
「オッケー、雷!」
天井を伝って近づいてきたフキヤグモは、雷の魔法陣で殺して、落ちた所を空属性魔法のシールドで受け止め、遠隔操作で遠くまで運んで落とした。
「ホントに器用よね」
風属性の探知魔法で一連の動きを感じとったのだろう、ミリアムが呆れたように言った。
「パーティ―にとっては使い勝手が良いんだから文句ないでしょ?」
「まぁね……」
そういうミリアムも、ダンジョンに来てから探知魔法を使い続けているような状態なので、探知の精度やスタミナがメキメキ向上しているように見える。
灰色に薄汚れて、シューレに拾われてきた頃に比べると、表情も引き締まってみえる。
「なに見てるのよ」
「ちょっといい女になったかなぁ……ってね」
「ば、ばっかじゃないの? 冗談言ってないで真面目にやりなさいよね」
猫人は、顔も猫だから顔色が分からないと思われがちだけど、ミリアムのような白猫は耳が赤くなっているのは良く分かるのだ。
ふふーん……ツンデレにゃんことか、いじり甲斐があるよねぇ。
「開いたぞ! ニャンゴ、明かりをくれ!」
「了解!」
隣の建物の入口に到達して、内部に入れるようになったらしい。
トンネルの先に進むと、セルージョが舌なめずりでもしそうな顔で待ち構えていた。
「パッと見ただけじゃ何の店かは分からねぇ。ニャンゴの前世の記憶ってやつで稼がせてくれよ」
「それは調べてみてだけど……」
建物の内部を照らせるように、光の魔法陣を発動させていく。
真っ暗だった室内が次第に明るくなっていくと、見えたのはズラーっと並べられた大小様々な液晶モニターだった。
「にゃぁぁぁぁぁ! 家電量販店きたぁぁぁぁぁ!」
「ちょっと待て!」
「ぐへぇ! なにすんだよ、セルージョ!」
早速、モニターの状態とかをチェックしようかと思ったら、セルージョに襟首掴んで引き戻された。
「何がいるか分からねぇ所に、無防備に突っ込んで行こうとすんじゃねぇ! アホか!」
「ごめん……」
前世の頃に見慣れた家電量販店の売り場を見て、興奮のあまりに突撃をかますところだった。
だって、ビッ〇なカメラ屋みたいな、ヤ〇ダな電機屋みたいな売り場を見て、興奮するなっていうのが無理だ。
前世の頃だって、特に用事が無くても何だかワクワクしていたのだから。
「そんで、ここの建物は当たりなのか?」
「うん、当たりも当たり、大当たり。アーティファクトの山だと思うよ」
「マジか、よっしゃー! これで一生遊んで暮らせるな」
「それはどうか分からないよ。どれだけ固定化の魔法陣が使われていて、どれだけ良い状態の物が残っているか分からないからね」
建物の中央付近には大型のエスカレータが設置されていて、近くの案内板を見ると地上七階、地下一階の建物なっているようだ。
「ニャンゴ、このデカい板っぺらもアーティファクトなのか?」
「そう、このスマホの画面をでっかくしたものだと思う」
「それじゃあ何か、ここに動く絵とかが映るのか?」
「たぶんね」
「もう完全に額縁サイズじゃねぇか」
展示されている液晶モニターの一番大きなサイズは百インチを超えていそうだ。
リモコンらしきものが置かれていたが、ボタン操作ではなくタッチパネルのようだ。
裏蓋を開けて電池を入れるようになっていないので、充電というか充魔力式なのだろう。
もしかすると、リモコン程度ならば使う人の魔力で賄えてしまうのだろうか。
「どうだ、ニャンゴ。何か分かったか?」
「全然分からにゃい」
「何だよ、あんだけ喜んだんだから、すぐに凄い発見とか無いのかよ」
「凄い発見って言うなら、この手の液晶モニターは既に見つかってるはずなんだよね」
隣の建物の案内板にも組み込まれていたし、携帯ショップの中にも沢山モニターはあった。
ダンジョン側だって、地下鉄の駅があるぐらいなんだから、案内板などに沢山使われていたはずだ。
「そんじゃあ、これがアーティファクトだという認識が無かったんじゃねぇか?」
「そうなのかなぁ……」
でも、良く考えてみると液晶部分は大きな面積だけど、映像を制御する部分は薄い基盤でしかない。
今の時代では、訳の分からない基盤よりも液晶の表面を保護するガラスの方が遥かに価値が高いから、ガラスを剥ぎ取って残りは捨てられてしまったのかもしれない。
「セルージョ、ここに展示されている物は、たぶん機能としては全滅だと思う」
大型の液晶モニターも、樹脂の部分は劣化していて、ガラスの重さを支えきれずに崩壊しているものもある。
当然、映像を制御する基盤部分も壊れてしまっているだろう。
「マジか、そんじゃあ……」
「お宝は倉庫だね」
俺が使っているスマホを保護していた、固定化と思われる魔法陣が梱包に施されていれば、稼動可能な状態のものが見つかるだろう。
ただし、稼動品が見つかったとしても、電源もしくは魔力源、それに入力する映像データが無ければ映らない。
「なんだか面倒だな。全部一つにまとめちまえば良いのに」
「うん、そういう製品もあったと思うけど、それだと何か一つの機能が壊れたら全体が使えなくなったり、一つの機能が修理不能だと全部を買い替えみたいなことになりかねないからね」
「そういえば、何年か前に火の魔道具と水の魔道具を一つにしたものが売られてたが、片方が壊れるとデカくて邪魔になるって不評で、今は見なくなったな」
「ただくっつけただけ?」
「あぁ、くっつけただけだったな。一つにすれば無くさないと思って買ったら、どこかで無くして二倍損したとかボヤいてた奴もいたぜ」
中空タイプの魔法陣を二つ重ねて、複合した機能が使えるようにするなら意味があるが、違う魔道具をくっつけただけではあまり意味は無さそうだ。
そういえば、イブーロのカリタラン商会の魔道具開発は上手くいってるのだろうか。
ドライヤーは製品版を売り出していたはずだが、ここにはもっと高機能なドライヤーが眠っていそうな気がする。
プラズマイオンドライヤーとかあるのだろうか。
家電量販店だと思ったけど、良く考えてみると、家庭用魔道具量販店になるのだろうか。
ここでの発見が、もしかしたら魔道具商会の勢力図を一新しちゃったりするのだろうか。
「うーん……対策した方がいいのかな?」
「どうした、ニャンゴ」
今感じた不安をセルージョに話してみると、その通りだと同意された。
「ニャンゴが起動させたアーティファクトみたいな物は簡単に真似できないだろうが、もっと簡単な構造で、今よりも進んだ技術の物はすぐに真似されて売り出されるだろうな」
「うーん……離れたとはいっても、ラガート領は俺の故郷だし、子爵様には色々と世話になってるからなぁ……真似できそうな新しい技術が見つかったら、子爵様かカリタラン商会に知らせるようにしよう」
前世の頃を思い出すと、新しいヒット商品が生まれれば、すぐに真似されて先行するアドバンテージなんて無きに等しかった。
生き馬の目を抜くような激しい競争社会にはなってほしくないけど、それが避けられないなら知り合いの商会に少しでも儲かってほしい。
むこうの建物の七階、八階の掃除をさっさと終わらせて、こちらのお宝探しに専念しよう。
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