第20話 協力者
「…早く乗りなさいよ」
林檎箱然とした荷台の前で鴉は言った。
早く乗れと言われてもドイツ軍、それも親衛隊のトラックに「はい、そうですか」とは、なかなかいかない。
「カナエちゃんから乗れよ?」
中田が、さっそく彼女の本名だろう名前を呼んだ。
「こちとらスカートなんだけど、アンタ覗きたいわけ?」
荷台のドイツ…いや、ドイツ側の日本人がゲラゲラと笑う。
中田は覚悟を決めて荷台に上がった。
「こりゃぁ…」
荷台にはMG42と呼ばれる軽機関銃が三本脚の架台に載せた状態で設置され
床には、その弾丸を200発ずつベルト状に束ね入れた鉄製の箱が幾つか転がっている。
その一箱を僅か10秒で、この機関銃は撃ちきる。
モーゼル小銃のライフル弾を秒間20発の勢いで撃ち人体を切り裂くのだ。
武内が持ち込んでいた南部式拳銃では蟷螂の斧、まともな太刀打ちは望めなかっただろう。
だが中田が驚いたのは武器だけではなかった。
荷台には機関銃の他に疲れた四人の男女が座っていた。
四人共、若く二十歳そこそこだろうか?
肩までのびた長髪、最近の流行りである裾の広いジーパンをはいている姿からして
明らかに(此方側の)民間人だろう。
「はは…先客?」
中田は愛想笑いをしながら隅に座るが返事はない。
教授と武内、最後に親衛隊の一人が乗り込むとトラックのアオリ板が閉められた。
荷台で機関短銃をかまえていた一人が運転台の屋根を乱暴に叩くと
トラックは木製の車体を軋ませながら進みだす。
「おい、アイツは?」
「えっ!?」
中田に言われて武内は初めて彼女の姿が荷台に無い事に気付いた。
慌てて後ろを見ると、トラックの後ろにまわった乗用車に彼女の姿はあった。
「大丈夫かな…」
一人だけ乗用車に乗せられた鴉を心配しつつも武内は青黒く光りながら天を睨むMG42機関銃から目が離せないでいる。
このまま自分達は彼女によってドイツ側へ引き渡されるんじゃないのかと思う。
考えてもみればだ…今朝、初めて会った人間を信用して危険地帯に入るとか正気の沙汰ではない。
鴉が彼方側でないと言う保証は無い。
いや、ナチの親衛隊と繋がってるのだ。
間違いなく彼方側の人間だろう。
「ファンタでも飲むか?」
親衛隊の一人がコーラのような瓶に入った飲み物を三人に勧めた。
客扱いはされているようだ。
昨晩、さんざん痛飲した中田にはありがたい。
さっそく飲もうとしたが先客達がジロリと見てくる。
彼等の分は無いようだ。
それどころか絶えず機関短銃を突き付けられており
自分達のような乗客の扱いではないと分かる。
「ねぇ、君は協力者なの?」
その四人の中で唯一の女性が聞いてきた。
纏めていない長い髪とインディアンの様なヘアバンド。
最近、アメリカで流行りだした無政府主義者の若者達に多く見られるスタイル。
アンドーナツも何処からか似たようなヘアバンドを手に入れ得意になっていたが
親に怒られたと愚痴っていた。
「協力…者?」
「協力者なんでしょ!?私たちも協力したいのよ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます