第11話 密猟者
「馬鹿じゃないの?」
少女は南部の弾を抜き終わると弾のみ機器の上に置いた。
「ばっ!馬鹿って何だよ!?」
武内はワルサーの銃口を向けられてるにも関わらず
彼女の前に立つ。
「この先ではね、こんな物は通用しないわ」
少女は弾の無い南部をズタ袋に入れるとジュラルミンで出来た座席の上に放り投げた。
「いや、待てよ!あった方が心強いだろがよ!?」
フィルムを台無しにされカメラマンの矜持を傷付けられたのか
中田も負けじと反論する。
「そうなったら…で、拳銃手放さない奴等が前回居てね」
彼女のコイツもかと言った顔を機体の破孔から入り込む光が照らす。
「そうなったから…で、ブッ放されて3日近く山の中を追い回される破目になったわ」
「そりゃ、災難だったなぁ」
中田は苦笑しながら少女が拳銃を忌避する理由を理解した。
確かに軍隊相手に拳銃の一丁二丁など、いかほどの気休めになろう。
「さて、ガイド料だけど先払いでお願いするわ」
没収が終わると彼女はワルサーを置き、右手を出した。
「1人、一万円ね」
「高っ!」
中田の顔から苦笑いが消える。
大卒初任給の半分以上を彼女は請求しているのだ。
中田は、ぼったくりバーにでも入ってしまったかの様な気持ちで彼女の右手を見た。
「えらい高いけどよ、ちゃんとやれるのか?」
大金を渡した後に山の中でまかれたらそれまでである。
「気に入らないなら帰って良いわよ?ただし足代に千円貰うけどね」
彼女は中田の質問に答えず、もう一度右手を出した。
「払えねぇってんじゃないんだ!」
中田の怒鳴り声が機内に響くが彼女は涼しい顔をしている。
本来なら、とっくに予算オーバーだった武内の方が堪えてしまった。
「ちゃんとやれるかって話なら案内はちゃんとやれるわ」
彼女は先ほど放り投げたズタ袋を椅子からどけドカッと腰を下ろすや脚を組んだ。
黒いスカートがはだけ、露になった白い太腿にかまう事無く彼女は続ける。
「もっとも、貴方達が満足出来る結果になるかは保証出来ないけどね」
「どう言うことだよ!」
満足出来る結果なるかを保証出来ない話に大金は払えない。
中田は食い付きかねない勢いで彼女に詰め寄る。
「前回、帰れたのは私だけだったわ」
機内が、シンと静まり返った。
「他の人は…どうなったんだい?」
それまで黙って聞いていた教授が尋ねた。
「射殺、地雷、捕虜、この場所でありがちな不運は想像出来るでしょ?」
「特に捕虜はお勧めしないわ…」
捕えられた者は拳銃を所持していた為に凄惨な拷問を受けたようだ。
受けたようだと言うのは、その現場を彼女は見ていないからだ。
熊笹の中を這いつくばって何とか逃げ延びようとする彼女の耳に
捕えられた者の悲鳴が数時間に渡って聞こえたのだと言う。
「何とかしてやらなかったのかよ!?」
何万円もの大金を受け取りながら逃げ帰っただけの少女に
中田は不信感を隠せない。
もちろん、彼女に救出が出来る様な能力はあるまい。
しかし、しかしだ。
「戻ってから、憲兵に通報するなり出来たろ?」
「私、言ったわよ…この先で皇軍の庇護は無いって」
救出に軍隊が出れば全面戦争再開になりかねない。
この戦争を奇妙な物にしているバランスを、お互いに核兵器を保有する両陣営は崩したくないのが本音だ。
軍隊は動かず、彼女が憲兵に逮捕されて終わりだろう。
「もし、敵に見付かった場合…どうしたら良いかね?」
気楽に行けるピクニックではないが、最悪の場面での対処法はあるだろう。
教授は最悪の場での最善手を聞いた。
「昨夜の焼き鳥、おいしかった?」
現在、こちら側の日本では「かすみ網猟」は規制がかかりつつある。
おおっぴらにやれるのは、この界隈ぐらいであろう。
「密猟者だと言ってみて」
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