第168話 見たくない像の効果

「しっかし、いろいろあり過ぎて何がなんやらだな」


 ベッドに寝転がり、両手を頭の後ろにやって一人呟く。

 ペンギンとセコイアの二人とブレストしたことでいろんな見地から神託と予言を分析することができた。

 一致する意見として、今後、未曾有の大災害が起こるかもしれないということ。

 局地的な災害……例えば津波や地震ならば辺境にまで被害が及ばない可能性が非常に高い。

 しかし、時期も何が起こるのかも分からない。


「災害救助に向かうことができる体制は必要かもな」

「ほんとキミは。自分を追い出した国に。お人好しというか、何というか」

「誰かが望んで俺を追い出しにかかったわけじゃないからなあ……」

「キミはそういう者じゃった。それもまた良し」


 掛け布団からひょこりと狐耳を出し、もぞもぞと布団が揺れる。

 このままダイブされそうな予感がしたので、すかさずペンギンをセコイアとの間に転がした。


『ヨシュアくん。目が回る』

『セコイアが寝られないと困るから。そこでカバディしておいて欲しい』

『フリッパーは腕と違って短く、カバディに向いていないが』

『体で大丈夫だよ』

『そうかね。カバディ、カバディ』


 妙にノリが良いペンギンに思わず声を出して笑ってしまう。


「むうう。宗次郎ー。お、案外。暖かくてこれはよい枕になるかもしれん」

『ペンギンの羽毛は極寒の地にも耐えうるものだからね。布団だと暑い』


 掛け布団から嘴だけが出てくる。

 全く、何をやってんだか、俺たちは……。

 一旦、災害予測の会話を打ち切った後、セコイアがベッドに飛び込み「ここは俺に任せて先に行け」みたいな態度を取るものだから、そのままペンギンと一緒にベッドに雪崩れ込んだんだ。


 早く寝てくれないかな……うるさくて寝れんわ。

 ん、でも。ペンギンがよい抱き枕になるのか。少し拝借して……。

 手のひらをペンギンの背に当ててみると、こいつはなかなか。おお。すべすべしているのだけど、手を押し込むととても暖かい。


 ガバッとしたら気持ち良さそうだ。

 衝動がおさえられずセコイアと反対側からペンギンに張り付く。


「お、おおお。こいつは……」

「じゃろ。雷獣も気持ちよさそうじゃ」

「呼ぶなよ。絶対」

「鍛冶場の方にしておくかの」


 もふもふふさふさな雷獣なのだけど、帯電しているからセコイアならともかく、俺だと倒れるかもしれん。

 いや、待てよ。電気療法なんてのがあるじゃないか。体の凝りと疲れを取るとかいう。

 いいかもしれん。加減が必要だけど……魔力5の俺じゃやはり厳しいか。

 

「そういえばヨシュア。公国から商人がきたのじゃって?」

「うん。特段目新しい商品を仕入れるつもりはないんだ。人口が急激に増えて、食糧とか家畜とか日常的に使う道具なんてものが欲しい」

「こちらからも出すのじゃろ」

「まあね。魔法金属を使った貨幣もできたことだし。いろいろ……あ、そうそう。砂糖イナゴ……バーデンローカストだっけの様子はどうだ?」

「これからじゃな。ヴァンもそのうちこの地に慣れるじゃろ。それからじゃな」

「ヴァン……あ、バーデンバルデンからの客人だな」

「キミが呼んだのじゃろうに」


 あ、あはは。

 砂糖を産出するイナゴことバーデン産のイナゴからバーデンローカストと勝手に名前をつけた。

 エイルにちゃんと名前を聞いておけばよかったのだけど、まあ、辺境流の呼び方ってことで。

 蚕やミツバチのように増やすことができれば、と思っている。

 レーベンストックのバーデンバルデンでもまだ養殖に成功していないというので、中々に困難かもしれない。

 だからこそ、生態に詳しいヴァンを派遣してもらい彼らと共同研究という形にさせてもらったのだ。

 成功の暁には彼らと養殖方法を共有するつもりである。

 レーベンストックは公国より規模が大きいくらいだから、養殖業が成り立つようになれば安価に砂糖を仕入れることができるだろう。

 もちろん、ネラックでも作るつもりではいるけどね!

 こちらは大量生産するほどの人的リソースがないから、レーベンストックに頑張って欲しい(人任せ)。

 

「そろそろ、収穫祭の準備もしなきゃだし、文官の募集、貨幣制度の開始……とやることが山積みだ……開発もしたいし……」


 バーデンローカストのことを考えていたら、他のことにまで及んでしまう。

 余りにも多くのやらなきゃなんないことがあり過ぎて、考えないようにしていたってのに。


『君も重々承知していることだから、口を挟むべきではないと思うが……プロジェクトはしかるべき者に任せ、君が本当にやりたいこと……とはいかないか、君が必須のプロジェクトを絞るよう進めていかないといけないね』

『早くそうしたいよ……。パソコンもスマホも無い。せめて電話があればまだ、もう少し手を伸ばすことができるんだけどね』

『ここから鍛冶場くらいまでの距離ならともかく、風車のある地と頻繁にコンタクトを取らなければとなると通信機器は欲しいところだ』

『電話の仕組みをなんとか魔法で導入できないかってことは公国時代に考えたことはある。なかなか開発まで手が回らなくて、さ』


 公国時代はひっきりなしに仕事が舞い込んできて、さばくだけで精一杯だった……。

 権限移譲しても、プロジェクトを任せても、それ以上のペースで他が増えていきやがる。

 際限のないモグラたたき状態に、俺は考えることを止めていた。

 ……昔のことを振り返るのはよそう。俺の健全なる精神のために。

 

『あれ、セコイアは?』

『もう眠ったようだね』

『そっか、急に静かになったと思ったら、寝付き良すぎるだろ』

『君も大概だと思うけどね。明日も早いのだろう? そろそろ寝ようか』

『だな。おやすみ、ペンギンさん』

『おやすみ。ヨシュアくん』


 何かと口を挟んでくるセコイアが大人しいと思ったら、ペンギンの羽毛の威力で寝てしまっていたのか。

 三人で寝てもベッドは全然余裕がある。

 仰向けになって目をつぶると、すぐに意識が遠くなってきた。

 

 ◇◇◇


 ――三日後。

 貨幣の製造、収穫祭の準備が急ピッチで進んでいる。

 それにしても、随分と人が増えたなあ。シャルロッテから報告を受けて実数として把握しているのだけど、人通りというものが生まれている。

 待ち合わせのため、バルトロと二人で中央大広場にきたわけだが、あの像と目を合わせないようにしていてもひっきりなしに誰かしらが通っていた。

 通る人みんなが、挨拶をしてくれて嬉しい……のだけど、あの像と見比べている人もいたりして、ちょっと微妙だ。

 写真がある世界じゃないから、公都レーベンストックに住んでいた領民はともかく、他の地域に住んでいた領民の殆どは俺の顔を知らなかったはず。

 一応、一国の長だったのでみんな名前は知っているみたいだけど、この像があるから、ネラックの人たちはみんな俺の顔を把握しているというわけだ。

 

「ヨシュア様の像。気合入ってんな。エリーとアルルは毎日来ているってよ」


 両手を頭の後ろにやったバルトロが例の像を見やり、顎をあげる。


「実物と会っているってのに、わざわざ像にまでこなくてもよくないか?」

「だよなあ。実物はもっと男前だぜ。ははは」

「……それはノーコメントで。それはともかく、そろそろ来るかな」

「たぶんな。面白そうなことに誘ってくれてありがとうよ」

「冒険者だったバルトロがいてくれると心強い。忙しいのに助かる」

「おう!」


 バルトロは片目をパチリとつぶり、ぐっと親指を立てた。


※追放された転生公爵は、辺境でのんびりと畑を耕したかった 2 ~来るなというのに領民が沢山来るから内政無双をすることに~ 発売します。


みなさまのご支持があり、二巻発売となりました!

2月10日発売となります。

ぜひぜひ、チラ見してみてください。

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