第49話 ペンギンに貨幣は必要ない件
「キミはこの奇怪な生物と会話しておるのか?」
「あ、うん。こいつ、一応言葉を操るんだ」
ペンギンのお腹ぺたぺたという衝撃の仕草に茫然としているところで、セコイアがちょんちょんと俺の腰辺りをつついてきた。
彼女は「ふむ」と呟いた後、目を閉じ何やらむにゅむにゅ呟き始める。
すると彼女の周囲に風が舞い、風が青白い光をまといだす。
そして、淡い光がペンギンとセコイアの両者を包み込む。
すぐに何事も無かったかのように光と風が消失した。
「ペンギンさん、大丈夫だろうな……」
「体・精神共に何ら影響を与えておらんよ。今の魔術は『分析』じゃ」
「ほお。何の分析をしたんだ?」
「あの奇怪な生物……ペンギンというのかの? あやつのもつ言語を分析したのじゃよ」
「魔法ってすげえな」
「この術はボク独自のものじゃ。未知の言語を解析するためだけにある」
「未知の言語ってそうそう出会うものじゃないよな?」
「うむ。じゃからして、長い魔法の歴史の中に該当する術がなかった。なので、自分で開発したというわけじゃよ」
「……無駄にスペックが高い……」
才能の無駄使いとはこのことだろ。
言語分析とやらの魔法を開発するのに一体どれだけの時間をかけたんだ?
未知の言語限定の解析術とか使いどころが殆どないだろ? 開発の難易度がどうこうじゃなくて、需要が無いから開発されなかった。
だから、開発したって。
時間が有り余るセコイアならではの発想だな。うん。
「ふむふむ。なるほどの。言語体系がまるで異なる」
「そうなんだ」
まあそうだろうなと思いつつもセコイアに相槌を打つ。
この世界の言語がいつごろ発生し、派生していったのかは分からない。だけど、それぞれの言語というのは過去に遡って行けばどこかで接点があるんだよ。
地球とこの世界の言語は文字通り「繋がりがない」のだから。完全に異質であっても仕方ない。
ひょっとしたら、同じ知的生命体だし言語も似たような感じになるのかもと思ったけど、そう都合よくはいかないか。
地球の人間とこの世界の人間も遺伝子を解析すると、別種なのだろうな。
俺はこの世界に地球にいた時の記憶を持ちながら赤子として転生した。なので、体はこの世界の人間のものだ。体の中にはマナが流れているし、それを使う事だってできる。
「ペンギンさんと会話したいのなら、俺が通訳するし」
「別の方法を使えば意思疎通はできるかもしれぬ。試してもよいか?」
「ペンギンさんに害が及ばないだろうな……」
「そこは心配せずともよい。ペンギンが同意するかどうかだけじゃからの」
「同意?」
「うむ。ボクが雷獣と意思疎通をしていたことを覚えておろう? あれと同じやり方じゃ」
「おお、野生児アタックか」
「なんじゃそれは……」
「いや、ちょっと待ってくれ。先にペンギンさんに伝えてもいいか?」
「構わんぞ。危険が無いことを伝えてくれい」
ふう。どういう形態で意思疎通するのか分からないけど、魔法的な何かであることは確実だ。
ペンギンは俺と同じ、元日本人である。いきなり不可思議な現象が起こったら大混乱して会話どころじゃなくなる可能性も高い。
って、しばらく放置していたら川の水をフリッパーでバシャバシャさせ腹に水をかけている。
な、何がしたいんだ……一応、元人間だよな? 精神も人間のはずだよな?
『ペンギンさん?』
『いかにもペンギンだが』
『何をしているの?』
『待っていると手持無沙汰になるだろう? 私はその不可思議な少女の言葉を理解できないからね』
『何か別の手段とやらで、ペンギンさんと意思疎通する方法があるとかあの狐耳が言っているんだけど、やってみる?』
『それは是非お願いしたい。興味深いではないか。この世界の者と会話できるなど』
『俺も一応、この世界の人なんだけどな……その辺はおいおい』
『了解した。私に異存はないさ。どうぞやってみてくれたまえ』
「おう」とフリッパーを上にあげ、嘴を開くペンギン。
ペンギンが人間ぽい動きをすると可愛いのじゃなくて、不気味さが勝つんだな……。
セコイアに親指を立て「大丈夫だ」と仕草で示す。
対する彼女は目をつぶり、意識を集中させている様子。
「うむ。なるほど。宗次郎というのか。ほう。ヨシュアに興味を持っている? ボクもじゃ。じゃが渡さぬぞ。何? ペンギンだからそういう意味じゃない? どういう意味なのじゃああ!」
興奮し始めたセコイアの頭にチョップを入れて黙らせる。
「分かった。意思疎通できているのは分かったから。二者間会話で、セコイアの声しか外からは聞こえないってことだな」
「うむ。心の中で会話するとでも言えばよいのかの? そんな感じじゃ」
「んー。ペンギンさんに公国語を覚えてもらうのが一番早そうだな」
「言語学習ならば、ボクと宗次郎で心の中で会話をするのが一番じゃ。心の会話――
「へえ。思っていることがダイレクトに伝わる感じか。言語の壁を越えて」
「そんなところじゃ。さて、じゃまをしたのお。宗次郎と問答をしておったのじゃろ?」
「一応な」
宗次郎って誰? と思ったが、ペンギンが人間だったころの名前だろう。
ペンギンと何か会話していた気がするけど、なんだったっけ。既に終わってたかも?
じーっとペンギンを見るも、真ん丸な目をパチリともせずぼーっと立っている。
『ペンギンさん、いや、宗次郎さん?』
『ペンギンで構わんよ。今、私はペンギンなのだから』
あ、そうね。
そう言われちゃったら、何も言えないわ……。
本人がペンギンでいいっていうのなら、ペンギンのままでいいや。
えっと、それよりも俺は何を会話していたのだっけか。
顎に手を当て「んー」と考え込む。
『あ、思い出した。バッテリーのことで何か言っていたような』
『バッテリーかね。「バッテリーがあれば助かる」と言っていたよ。君は』
『うん。いろいろあってね。ペンギンさんはバッテリーのこと分かる?』
『ざっくりとし過ぎだよ。バッテリーを持っているのかいないのか? の質問であれば見ての通り、私は無手だ。バッテリーが何に使う道具なのか? と言われれば、知っていると答えることができる』
こ、このペンギン。何かこう知識のある人独特の残念な感じがするぞ。
言葉を類推してくれないというかなんというか。俺の言い方が悪いのは確かだけどね。
『あ、ごめん。バッテリーの構造が分かる? できれば一からバッテリーを作成したいんだけど』
『材料があれば難しくはないだろう。バッテリーといっても蓄電さえできればいい、充電効率は度外視する……という条件はつくがね』
すげえ。ペンギンなのにすげえ。
この分だと科学知識全般において、俺より知っていそうだよな。それなら、是非とも仲間に引き入れたい。
『マ、マジか。う、いやでも、バッテリーだけ、パーツだけを作ってもらうよりは全体を理解してもらいたいな』
『ふむ。協力することはやぶさかではない』
『ほんと! 俺が雇うという形でもいい。賃金はもちろん払う』
『いや、ペンギンに貨幣が必要だと思うかね? 私の望みは二つ。衣食住の確保とさきほどの不可思議な術について学びたい。この二点だ』
『魔法に興味が?』
『魔法かい! そいつはいい! 知的好奇心がくすぐられる! ペンギンの身となった私だが、知的好奇心を抑えることは難しいようだ。人間としての
やれやれとフリッパーを揺らし首を左右に振るペンギンはやっぱりシュールだった。
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