疫病神の作り方

 人間はこの世から消え失せた。

 人々は僕に見えている世界を見ると、嗚呼、怖がっているのね、と言う。それなら、怖がらないように遠くに行ってあげるわ。

 確かに僕はぐちゃぐちゃのどろどろに溶けた肉塊なのだけど、ゆえにこそ人間は怖かったのだけど。

 僕を産んだ母は言った。あなたのためなのよ。あなたを愛しているから私はあなたから離れるの。ごめんなさいね。

 違う。このぐちゃりと歪み血塗れになった体が醜くて面倒だから離れていったんだ。どれだけ綺麗事を言ってもそんな本心はバレバレ。

 あなたを育てられないから、あなたの面倒を見切れないから、あなたを隔離したのよ。

 今日も這うようにして六本の指を動かす。水を飲む。生きる。生きている。されどそこに人間はなく、周りに囲んでいるのは、定期的に給餌をするロボットと、定期的に太陽光を取り入れるロボットだけ。

 あなたのような人間でも生きていけるように、私たちは離れるのよ。

 ねちゃり、ねちゃりと音を立てて、シリアルを食べる。話す相手はいない。声帯を震わそうとすると苦しくなるから、話さなくていいようにと、こうして無機物を並べてくれている。

 この箱庭は酷く小さく、酷く狭いと思う。寂しいと思う。息苦しいと思う。だが、これは自分自身が作った箱であり、そこに閉じ込められたのは当然の結果であることを、そろそろ理解せねばならない。

 そして、好奇の目を持ちながらも距離を取り、檻越しに僕を研究しようとしていた人々は、なべて気がつくべきだ。そこに何の意味も無い。無意味。お前らの考えは無意味だということを。

 相互理解するには、あまりに僕は焼け爛れていた。僕を愛する人々により、僕は疫病神に祀り立て上げられる。そこに本当に愛があるのかを、僕は知らない。

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