童貞を捨てるためにサキュバスを作り始めて20年、いつのまにか魔王になってました~異世界で魔王を倒した転生勇者は童貞を捨てるために奮起する~
水谷輝人
俺、気が付いたらなぜか魔王になってました
第1話 俺、気がついたらなぜか魔王になってました
やぁ、皆さんはじめまして。
俺の名前は『フォート・アレイス』。現在40歳だ。
こんな名前をしているが、実は異世界から転生してきた身だ。記憶はもうほとんど残ってないが、前世ではたしか、『ニホン』という国に住んでいたと思う。
「さーて、今日も制作に取り掛かるとするか」
ここ20年、俺には寝る間を惜しむほど必死になって取り組んでいることがある。
それは、淫魔、つまり『サキュバス』を生み出すことだ。
なぜそんなことに20年もの月日を費(つい)やしてるのかって?
それじゃあ、まずは俺の今までのこと、人生について語るとしようか。
……とはいえ、もう40年も前のことだ。あまり記憶には残ってないが、残っているものだけ話そう。
※※※※※※※※
そう、あれはニホンでのある日のことだった。
俺が道を歩いていると、目の前にある横断歩道を、きれいな女性が歩いている姿が見えた。
何でもない、当たり前の風景。だがその日はいつもとは違い、遠くからトラックが猛スピードで走ってくるのが見えた。
トラックの先には、さっきの女性が。
『あ、危ないッ!』
そう思った俺は、とっさにその女性を突き飛ばし、
『ッ――――――』
女性のかわりに自分がそのトラックにはねられた。
『あぁ……、俺死んだのか……』
―――――しかし、不思議なことに体に痛みを全く感じない。
“体”というのも、自分は死んだはずなんだから感覚はもうないはずなのに、体に風が当たるのをなぜか感じているのだ。
『なんだ? 一体何が起こってるんだ?』
“体”が動かせることに気が付いた俺は、まぶたも動かせるかどうか確認した。
確かに、ピクピクと動かせるのを感じる。幸いなことに、まぶたは開けられるようだった。
今の自分の状況を不思議に思った俺は、眼をおそるおそる開いてみた。
次の瞬間、目の前には見知らぬ男性の顔があった。
「おお、目を開けたぞ! アレイス、パパだぞ! おーいママ、早くこっちに!」
……アレイス?パパ?
一体何を言ってるんだこの人は?
「あら本当だわ! アレイス、ママでチュよ~!」
今度は面識のない女性に、再び“アレイス”と呼ばれた。
もちろん、俺は“アレイス”なんて名前じゃない。ちゃんと『 』っていう名前がある。
(おかしい、なんだコレは? 夢でも見てるのか?)
俺は、まず自分の体が一体どうなったのかを確認しようとした。
あの記憶が正しければ、俺の体はボロボロになってるか、手術を受けて一命をとりとめた後の包帯を巻かれた状態のどちらかになってるはずだ。
(俺は確かにトラックに轢かれて――――――)
俺は確かに覚えていた。
時速60キロのトラックにぶつかった自分の体が潰され、骨が折れて内臓に突き刺さったあの痛み。急な衝撃による脳が揺れるような感覚。急には止まることのできないトラックの車輪に、自分の体が潰れていく、言葉では表せない苦しみ。
だが自分の体を見てみると……。
(な、何だ……コレ……!?)
俺の体は、潰れてなんか、いや流血すらしていなかった。“そこ”は良かった。
だが、なぜか俺の体は縮んでしまっていた。
正確に言うと、首があまり動かせないので手までしか見えなかったが、俺の手は生後1年にも満たない子供のものと変わらないぐらいにまで小さくなっていた。
最初はこの不思議な状況を理解できなかった。
しかし、数日経つと、だんだんと自分の状況が分かるようになった。
まず、“確かに俺はあのトラックにはねられて死んだ”、ということ。そして、なぜか赤ちゃんとして生まれ変わったということ。
俺は全くの別人として新しい生命をもらったのだ。
これは、周りにいた人から聞いた話で分かったことだ。
さらには、周りの人の話から、俺が世界で数十人しかいない『タレント能力』持ちだということも分かった。
そう、俺が生まれた世界は、モンスターがはびこる“ゲーム”のような世界だった。
この世界の人々は様々な魔法や武器を使い、魔物を倒してこの世界を守っている。
その魔物たちの元締めが『魔王』だ。
生まれ変わった俺は、他のタレント持ちの人と協力して、世界の悪『魔王』を倒さなくてはいけないという運命を背負うことになった。
『タレント能力』を持っている人は、強大な力のかわりに何かしらの呪いを持っている。
俺のタレントは『
俺は最初、『こんなの呪いって言えるものなのか?楽勝すぎるだろ、ようはセッ◯スを我慢すればいいだけだし』という程度に思っていた。
俺は魔王に勝つために強い魔物を作った。
ドラゴン、リッチー、デュラハン、日本にいたころに聞いたことのある強そうな魔物はとりあえずなんでも作った。
そして、18歳でついに魔王を打ち倒し、世界は平和になった。
だが、20歳になると、この呪いの恐ろしさを知ることになった。
そう、どんな人ともセッ◯スができないのだ。相手が、共に戦ってきた仲のいい仲間の女の子でも、娼婦でも、奴隷でも、たとえ男でもだ。
20歳なんてそりゃヤリたい盛りの年齢だ。でも、誰ともセッ◯スができない。
俺は悩みに悩んだ。このまま童貞を捨てられずに死んでいくのは嫌だったから。
だけど、この呪いの“人”の範囲がとても広く、“人”関連ならどんな生き物、いや生き物じゃなかろうとセッ◯スができなかった。
獣人はもちろん、魔人もダメ。エルフやドワーフやオークも『メタヒューマン』と呼ばれる遺伝子変異で生まれた、人間と近い生き物なのでダメ。リザードマンも『竜人』だからダメ。俺が生み出した女性のリッチーがいたが、リッチーも、というかアンデッド全部が『死人』だからだめだった。
なんとか人型の生き物で童貞を捨てようとしたが、さすがに子鬼(ゴブリン)とかで童貞を捨てる気にはなれなかった。
最終的に、女性そっくりの見た目の人形、いわゆる“ダッチワイフ”と呼ばれるものを作って疑似的にセッ〇スしようとしたが、ダッチワイフは“人”形なのでそれすらもできなかった。
窮地に追い詰められたそのとき、俺は思いついた。
『……人に分類されていない人型のモンスターを創ればいいじゃないか!』
俺はひたすら考えた。人型の女性の見た目をしたモンスターを。
ラミアやマーメイドはダメだ。『蛇人』、『人魚』と人が種族名に付いてしまっている。
そこで、俺は『サキュバス』を思いついた。
『サキュバス』は人間の女性の形をした悪魔で、この世界では数百年前に絶滅したとされている。漢字で書くと、『淫魔』となる。
そう、サキュバスは『淫魔』なのだ。
なんど見返しても、どこにも『人』の文字が入っていない。
そして、このとき俺の目標が決まった。
『よし、サキュバスを作ろう!』
※※※※※※※※
こうして、今に至るわけだが、思ったよりサキュバスを創ることに難航してしまい、いまだに作ることに成功していない。
「ああ、もう、また失敗かよ! う……おええええええ!」
俺は今、昔魔王が住んでいた城に住んでいる。
多くの魔物の失敗作を生み出すことが予想されたため、広い場所が必要だったからだ。
俺のタレント『魔物創成』は、いくつかキーワードを入れると、魔力を消費してそのキーワードに適した魔物を自動で創る能力だ。例えば『小さい ぷにぷに 青い』等と入れると“スライム”ができる。
だが、今まで色々なキーワードを入れても、一度もサキュバスを生み出せたことはない。
今も『悪魔 人型 性別あり 生殖可能 おっπ』などのキーワードを入れたが、胸がでかいインキュバスができてしまった。
インキュバスは、サキュバスの男バージョン。ようは、男の淫魔だ。
だから、服もかなりきわどい服を着ている。
そんな格好で胸だけ女性とか言われたら吐くに決まってるよね。
残念なのが、キーワードで『男』か『女』を入れることができないというルールがこのタレントにあることだ。
『女』と入れれば一発でサキュバスを生み出せると思うんだが……。
「アトラス……」
「お呼びでしょうか」
「このインキュバスも適当にどうにかしといて……見てるだけでガチで気持ち悪くなる」
「かしこまりました」
彼はアトラス、俺が打倒魔王に励んでいたときに創ったデュラハンだ。
俺が生み出した失敗作たちは、俺が昔作ったモンスターたちに任せている。
どんなふうにしているのかは知らないが。適当に逃してるかもしれないし、普通にこの城にかくまっているかもしれない。
まあ、俺はこの開発専用部屋から20年外に出てないから、どうなってるのかは全く知らんが。
「クソッ、次こそは……」
※※※※※※※※
「ハア……ッ、ハア……ッ」
や……やっとだ……。
「ついにできたぞおおおおおおおおおおお!!」
俺の目の前には、扇情的な格好をした黒い羽の生えた女性が立っていた。
そう、ついに、
「これで……やっと、童貞を卒業できる!」
俺はサキュバスに向かって言った。
「俺とS◯Xしよう!」
「別にいいですが、マスターは死にたいのですか?」
サキュバスはOKしたが、かわりに意味不明な質問を返してきた。
「は? 死ぬ?」
「はい、私の能力は『オール・ドレイン』。私と性的な干渉をした人から生命力、魔力、経験値などを全て吸い取る能力です。私と繁殖行為をしたら生命力を全部吸われて死にますが、それでもいいならどうぞ」
「…………マジで言ってんの?」
「はい、マジです」
え? どうすんのこれ、俺、童貞卒業できないってこと?
サキュバスの衝撃発言に俺が戸惑っていると……。
「魔王さまあああああッ!!」
突然、部屋の外からアトラスの声が聞こえてきた。
それとほぼ同時に、ひどく焦った様子のアトラスが部屋に駆け込んでくる。
「急にどうしたお前? 魔王って誰だよ」
「あなた様以外におられますか!? それより大変です、この城に勇者が迫ってきております!」
「は? そりゃまたなんで」
「魔王さまを倒しに来たのです!」
「え? 俺を?」
『魔王出てこーい!』
遠くからそんな声が聞こえてきた。
「え? ガチでどういうこと? ……まぁ、とりあえず『投影』!」
俺はスキル『投影』を発動させた。
このスキルは、自分の任意の場所にスクリーンのようなものを出して、テレビ通話のようなことができるものだ。
早速、スクリーンを魔王城の前に出してみた。
「……えーと、お前が『勇者』?」
『そうだ!俺が勇者だ!貴様が魔王か!』
投影されたスクリーンには、勇者らしき男と大量の兵士たちの姿が写っていた。
「えーと、多分人違いです。お引き取りください」
『とぼけるな! 最近、街や村で出現するモンスターたちのすみかがここであることは、すでに突き止めているんだぞ! 多くの人々を殺しおって……許せん!』
……はい? モンスターが人を殺す?
「あの、本当に人違いじゃないんですか? 確かに私は魔物を多く生み出しましたけど、人を襲うようにはしてないはずなんですが……」
『嘘をつくな! すでに国が1つ滅んでいるのにまだしらばっくれるつもりか!』
おかしい。俺はモンスターに『人を襲え』とかいう命令はしていない。
可能性があるとしたら……。
「アトラス、俺が作った魔物の失敗作っていつもどうしてんの?」
「はい、まず様々な技術、スキルを教えて、『自分の食料は自分で確保してこい』と命令しています」
「うんうん、それで?」
「ほとんどの者が『どこに行けば食料があるのか?』と言うので、『そこら辺の街へ行けばどこにでもある』と伝えました」
「うん、お前何してんの?」
「はい? いえ、私は『食料品がどの街でも売っている』という意味で伝えたのですが」
……完全にこいつのせいじゃん。
たぶん、『そこら辺の街のどこにでもある』って言葉から、『食料』=『人間』って意味で捉えて、人を襲いまくったってことじゃないの?
……いや、コイツに投げやりにしてた俺も悪いけどさ。
「いやこれどうすんの、勇者とか絶対強いでしょ。兵士も尋常じゃないくらいいるよ」
『早く入り口まで来い! さもないと、我々の方から攻めるぞ!』
「いやいやいや、待ってください!」
『待ってほしいならさっさと来い!』
いや行ったら殺される展開じゃん、これ。
そんなところにわざわざ――――――
「行くわけないやん」
『……貴様、やはり来ないつもりだな!』
しまった、心の声が!
『ええい、もう我慢できん! 全兵突撃!』
『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』』』
「あ、ちょっと待……ッ!」
俺の静止の声もむなしく、勇者たちは城に乗り込んできた。
そして、10秒後には……。
『ぐああああああッ!!』
『ぎゃああああああああああッ!!』
『だれかあああああッ助けてええええええええええええッ!!』
血祭りにあげられていた。
勇者たちのほうが。
「…………あれ?」
あまりの光景にあっけにとられる俺。
俺の目の前のスクリーンには、大量の血しぶきが上がっている様子が映し出されている。
『やめろ……やめろおおおおおおおッ!!』
『来るなあああああああああああああああッ!!』
そんな、兵士たちの
「そうだよ、勇者は? さっきの勇者はどこだ?」
勇者の姿を探すと、少し離れたところにすでに死体となった勇者の姿があった。
「ええ……?」
そして、わずか3分で、兵士たちはほぼ全滅し、残った兵士たちが城から泣きながら逃げていった。
「……何……これ?」
こうして、俺の楽しい(?)魔王ライフが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます