第16話 五人を待つ運命は秘密!


『ミドリ』。


 それは今から数か月前、ひょんなことで知り合った、世にも奇妙な女の子の通称だ。


 僕が前作『ひゃくえんせんそう』の執筆に悩んでいたある日、緑色のジャージを着た少女が目の前に現れ、話しかけてきた。


 とても子供とは思えないませた口を利くその女の子は、周りの人たちから『ミドリ』と呼ばれていた。それからとある事件をきっかけに『ミドリ』は、僕の日常をその強烈なカラーに染めていったのだった。


 ミドリは小学四年生だが、その知識と知能は大人も目を瞠るものがある。そのせいか彼女の口調は時に、人を馬鹿にしているように聞こえることもあるが、そうではない。常に良かれと思い、最短距離で物事を考えるのが癖になっているのだ。


 あまりのぶっきら棒さに最初は戸惑っていた僕も、彼女がひどく不器用で純粋な人間だとわかると、傍若無人な口調をいつしか愛すべき個性として受け止めるようになっていた。


 ミドリがどういった経緯で執事を任されるようになったのかは謎だが、何かのきっかけでずば抜けた頭脳が評価され、異例の抜擢になったと言う事ならあり得なくもない。


 なぜ、ミドリは僕に気づいていながら知らぬふりを決め込んでいるのか?彼女を質問攻めにしたい気持ちがないわけではないが、もし彼女が僕の知っているミドリなら、きっと何か考えがあってのことに違いない。


「それにしてもあの女の子、今までどこにいたのかしらね。昨日の昼間にリフトで見た子かしら」


 ミス・ビリジアンが出ていったドアを見つめながら、みづきがぽつりと漏らした。


「多分そうだと思う。きっと、僕らが来る前からこの屋敷にいたんだろうな」


 あのリフトを操って自由に山と屋敷を行き来していたのなら、かなり慣れているはずだ。問題は彼女が僕らにとって心を許すべき立場の人間かどうか、ということだ。もし彼女が何かの事情でよからぬ企みに加担させられているのであれば、先ほどの態度も僕を深入りさせないための芝居なのかもしれない。


 そんな埒もないことを考えていると、奥のドアから上着を引っ掛けた都竹と安藤が姿を現した。


「みなさん、我々はこれから改めて西方氏の消息を辿ってみます。もし二時間で手がかりを見つけられなかったときは、不本意ながら警察に助力を仰ぐことになります……では」


 二人が食堂から姿を消した後、弓彦がおもむろに口を開いた。


「みなさん、僕らも二時間後にリビングに集合しましょう。その後の展開によっては合宿自体が中断となるかもしれないし、継続するにしても西方氏抜きの五人でいいのかどうか、検討する必要があるでしょうから」


「賛成ですな。神楽先生の言う通り、我々にはこの先の日程を決める権限はない。神谷先生に事情を説明し、判断を仰ぐ必要がある」


 草野が弓彦に同意を示すと泉が席を立って「当然、続けて貰わないと困るわ」と言った。


「何か、特別な事情でもおありですか」


 続けて席を立った草野が問うと、泉は「だってそうでしょう」と挑むような目になった。


「昨夜、あれだけの騒ぎが起きたのに、何も書かずに帰るなんてあり得ないわ。私が神谷先生ならこう言うわね「みなさん、恐れずに物語の二ページ目をお書きください」ってね」

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