第25話

再び静まり返った中庭。その静寂に堪えきれない様にスレイブが庄之助に問いかけた。


「あれで良かったんですか?」


「ああ…。」


「一雄君、泣いてましたね。」


「賢い子だからな、何となく気づいたんだろう。」


「そうですね。」


「……。」


「……どうしますか?」


「ん?」


「残り時間はあと1日程ありますよ?」


「そうか…。」


「また、遊びにでもいきますか?」


「…………なぁ。」


「はい?なんですか?」


「1つ聞いてもいいか?」


「ええ。」


「どうして桜の木が枯れてるんだ?」


「えっ……?」


「何か知ってるんだろ?」


「いや、その……。」


「教えてくれ。」


「それは…。」


「まさかこの命は。」


「そうですよ!あなたを若返らせたのはこの桜の命です。」


「やっぱりそうなのか。」


「いまこうして生きているのもこの桜の命のおかげです。」


「じゃ、この桜が枯れてしまったのは俺のせいか……。」


「それは違います。」


「じゃぁ、なぜ!」


「この桜の願いです。」


「桜の?」


「言わない様にと言われたのですが、この桜の精に。」


「お前、会ったのか?」


「ええ、自分の残りの生命をあなたに与えてくれと。」


「どうしてそんな馬鹿な事を。」


「それがあなたの望みだからと。」


「望み?」


庄之助は昨晩の自分の言葉を思い返した。


《庄之助は縁側に座り桜の木を眺めていた。満開の桜は風でざわめき揺れていた。


「今日も元気じゃな、羨ましいのう。ワシにもその元気があればのう。」


庄之助はうつむき溜め息をついた。


「昔に戻りたいのう。そうすれば一雄にも本当の強さってものを教えてやれるのになぁ。」》


「まさか、あの言葉を聞いて?」


庄之助は桜の木に手をついて。


「馬鹿野郎…。」


「庄之助さん……。」


「いや、馬鹿なのは俺の方だ。そんな事とも知らずに、こいつの命を無駄に使っちまったんだな。」


「だから私は何度も言ったんです!遊んでないで早くと。」


「なんでもっと早くに本当の事を……!いや、お前はこいつとの約束を守っただけか……。」


再び沈黙する2人、またスレイブが耐えきれずに。


「で、でもほら!一雄君には十分伝わったんじゃないですか?まぁ、あなたがお爺さんだとは気づいてないでしょうが。」


「そうか…、伝わったかな?」


「大切な事は伝わったと思いますよ、あなたの姿を見て。」


「そうだといいんだがな。」


「そう信じましょう、賢い子なんですから。」


「ああ…。」


「でもやっぱり、早く行け!なんて言わずにもっと話すべきだったんじゃないですか?」


「……。」


何かを考え混んでいる庄之助。


「庄之助さん?」


「なあ。」


「はい。」


「戻すことはできないのか?」


「え?」


「この命を返すことはできないのか?」


「それは……。」


「どうなんだ!」


つづく

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