第146話 投資の回収作業

 さて、色々と暗躍はしているが豊後大友家は侵略戦争を一切行っていない。

 なので領地としては豊後、肥後、筑後、肥前の一部を手に入れている状態だ。

 史実だと、この後に陶晴賢くんが厳島で毛利家に敗北し、勢いに乗った毛利が大内の領地を残さず奪い取る。

 この時に豊前、筑前の住民が大友に助けを求めて来たり、反抗してきたので、それを鎮圧して大友家は九州北部を手に入れた。

 この時期はだいたい1557年以降。

 今から4年位後の話である。


 このあと凶悪な毛利狐との戦闘がはじまり1561年頃から再び豊後武士は戦乱に巻き込まれる事になる。

 向こうは向こうの言い分があるだろうが、こちらとしては6国も手に入れたんだから、九州くらいくれても良いじゃないかと思う。


 なので、主君を倒そうとした陶を活かさず殺さず、かといって毛利もそれほど活躍できない様に、中国の領主に『毛利は大内を裏切った非道の存在』と喧伝しまくっていたのだが、どうもうまく行かなかった。

 その理由として、陶が酷過ぎたというのが理由に上がる。


 史実でもそうなのだが、この男態度が悪すぎる。

 建設業界で言えば、元請け会社の部長が自分は偉いんだと勘違いして下受けに威張っているような状態で、あまりにも態度が悪いため毛利も『こいつ殺そう』状態になった始末である。

 おまけに疑り深い一面があり、配下の江良房栄の才覚を恐れた元就が、房栄が内通しているという噂を流すと晴賢は他の家臣が「元就の謀略だ」と言うのも聞かずに房栄を誅殺している。


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「と、いうわけでそろそろ陶は破滅するだろう」

 場所が厳島になるか山口で暗殺されるかは分からないが、陶の命はそう長くないだろう。

 というわけで、そろそろ豊前と筑前を支配する準備をしないといけない。

「なるほど。では、兵士の準備をするべきですな」

 腕がなる。といわんばかりに戸次が声を挙げる。だが

「いや、大内殿と公家を数人呼んでくれるか?」

 戦争なんかで大事な領民を減らす必要もない。


「さて、今まで身を落ちつけて頂いたわけですが、少しだけご足労を願えますか?」

 と、元8国の大名だった大内義隆さんを呼んだ。

「すると、戦になるのですか?」

 また、同じように聞かれる。

「いえ、大内殿には幾ばくかの金を持ち、神社に向かって頂きたいのですよ」

「神社…ですか?」

「ええ、宇佐神宮へ」


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 大分のUSAこと宇佐神宮。

 応仁天皇の神社と言う事で何故か九州でも強い力を持ち、さらに何故か大友よりも大内と仲が良かった神社である。

 まあ、多分大内の方が力があるし、寄進料も多かったからだろう。

 1530年代にも大内義隆は多額の献金をしているし、境内の立て直しもしている。いわば大口のスポンサーである。

 これに対し大友家は大内滅亡後、宇佐神宮の末寺の奈多氏がいじめまくり、神主の一族を生害したり、領地没収などの嫌がらせをしていたりする。

 本当にマジで何やってんだこいつら。と言いたくなる悪行で、宇佐神宮の神官も日記に前代未聞の悪行と書いている。

 ただ、1548年には大友晴英くんが請願文を提出もしているので、今の時点では大友との関係はそこまで悪くない。

「陶の悪行は豊前にも響いている。そこで貴公のお力でとりなして頂きたいのだ。」

 山口は貿易や商売がうまくいっておらず、みかじめ料…もとい寄進の額が年々減っている。

 これに対し、豊後は大内義隆さんと同額の金を毎年送っていた。

 さらには、水道設備とか街道整備などインフラも手伝っている。

 ここでダメ押しとして、今までのスポンサーさんに手土産を持たせて

「大友さんに少しだけ味方するように、豊前の信者たちに口添えを願えないか?」

 と世間話をして頂こうと言う訳だ。


 別に大友の配下に成れと言う訳でもない。


 どこかの勢力に肩入れするなんてしたら、野蛮な部族が攻め込んできたり、どこぞの龍造寺隆信みたいに人質をとって座主を脅してくる可能性もある。

 だから「大友さん良いよね。水道とか道とか整備してくれてるし、彼らが居ないと生活が不便になるだろうし寄付も減るから豊前が貧しくなるかもね」

 と近所の領主たちに世間話をしてもらうだけである。


「うまく、いきますかな?」

 臼杵兄弟が慎重に尋ねる。

 「我々は便利な生活と金を与えた。逆に陶は税で搾取した。それでも陶に従うという人間がいるだろうかね?」

 理想としては、無条件でみんなが味方してくれるのが一番だが、陶に従う現状維持の方が良いと言う領主もいるだろう。

 だが、長い物には巻かれる日本人がいつまで孤立できるだろうか?

 それに、仮に山口の盗人が怒って攻め込んで来たならば、神仏を守るために宇佐神宮をお守りしなければならないが、その場合他人の弱みに付け込むのが上手い毛利狐が牙を剥くかもしれない。

 かといって自分の領地が平和的に消滅したのを見ているだけだと、普段威張っている分だけ陶さんは部下から何か言われるかもしれないだろう。

「まあ、器量もないくせに当主になった苦しみを存分に味わってもらおうじゃないか。山口の盗人には」

 経済力とインフラによる平和的併合。

 それがうまくいくか、そろそろ試してみようと思うのである。


 毛利狐のさらに後ろにも手紙を出しながら、俺は次なる一手を甲賀忍者に命じた。


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