第80話 転売ヤーは●ね。貧困を放置する国家はもっと死ね。

 何度も書きますが、この時代は山伏と言うなんちゃって仏教徒や僧兵がいるので、大抵の大名は寺社の取り締まりや弾圧をやっております。無抵抗の僧侶なんてのは幻想なので、あまり宗麟の事を極悪非道の残虐者と思わないでやってください。

 特に佐賀県。宗麟が仏教徒時代に行っただけだから、宗教的迫害で燃やすのは物理的に不可能です。


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「なんじゃこれは!柄を握る力がまるで違うではないか!!」

「この靴も、地面に吸い着くがごとき。まるで滑らん!」


 模擬戦は宗麟チームの圧勝で終わった。


 多少 力が強くてもゴム底靴を履いた人間とかけっこで勝てるわけがない。

 そこで、種明かしとして実際に軍手とスパイクを一万田の武士に装着させ、効果のほどを確かめてもらったのだ。

 さあ、このすばらしい人類の技術を誉め称えるがよい…などとは思わなかった。


「しかし、同じ道具を使えれば我らの方が強いはず」

「そうじゃ、このような道具を使うとは卑怯ですぞ!」


 手書きでなくワードで文章を打ったったら『心がこもってない』。

 エクセルで仕事を効率化したら『ずるをするな』と言い出すが如き、クソ老害ムーブをかましてきた。

 ああ、おまえら立派な大分県人の祖先の一部だよ。(※地域差があります


「たわけ!!!!」


 一喝。


 落雷のごとき豪放が響く。


 え?俺じゃないよ。

 誰だよ、いきなり怒ったやつは?


 と見るとベッキーが鬼のような形相で武士たちを叱りつけていた。

「一度ならず二度も負けたくせに、己の努力不足も認めず『道具が悪い。卑怯』じゃと?『それを戦場で敵に言うのか?』と御館様に言われたばかりじゃろうが!力が弱ければそれを補う道具を使う。勝てない相手がいるなら勝てるように工夫する。そのような素晴らしいお知恵を賞賛することもなく難癖を付けるだけとは恥を知れ!!!」

 と殴りかからんばかりの剣幕で叱りとばす。


 おい、やめろよ。空気が悪くなるじゃないか。反乱ゲージがたまるだろう。

「だいたい、御屋形様の珍妙な発明に関しては一月前からワシが『これを使えば作業中の怪我が減る。力も強くなる。便利じゃ』と言っておったじゃろう。なのにおまえたちは新しい工夫も試さずに前々からのやり方に固執して、このありさまじゃ」

 え?たしかに工事現場用には渡していたけど、これ内緒ねって言っておいたんだが…。じゃないと、俺負けちゃうじゃん。

 たぶん手袋にはしゃいで、記憶からきれいに抜けていたな。

 あ、危なかった。

 一万田が昔のやり方に固執してくれてたおかげで助かった。

「もしも源平のご先祖様が種子島(鉄砲)をみたら、すぐに使ったじゃろう。勝つことこそが武士の本懐じゃろうが!」

 いや、あの時代の武士って「やあやあわれこそは(=こいつを倒すのは俺だから手柄の横取りするなよ)」って凄い非行率な戦いしてなかったっけか?

 こうして過去って美化されていくんだな。

 まあ、黙っておくけど。

「悔しければ、これ以上の工夫を重ね、正面から戦って勝てば良いではないか!相手に手加減してもらって勝ててそれでうれしいのか!貴様等は男か?幼児と変わらぬではないか!」

 …あの、ベッキーさん。あんまり煽ると、その怒りの矛先は全部俺に来るんで止めて。

 そう思っていると。


「……………その通りじゃな」


 あれ?

「理路整然とした教示、恐れ入る。確かに今回は我らの力不足…いや、工夫不足じゃ」

 ……………一万田さん…何か悪いものでも食べた?

 ベニテング茸とか

「それバッドトリップするか死ぬやつじゃないですか」

 と、さねえもんがつっこむ。


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 おそろしいくらいあっさりと一万田たちは敗北を認めた。

 どうやら「あんた程の実力者が言うなら…」という奴なのだろう。

 部下には非常に厳しい同年代の現場監督が『同年代』というだけで俺には非常に優しかったように、自分の認めた相手の言葉なら素直に聞くらしい。

 体育会系の思考ってよくわからないが、どうやらきれいにまとまったようなので、ヨシ!なのだろう。すごく納得いかないが…。

 これで二年後予定の反乱を思い直してくれると良いのだが。


 そう思っていると、怒りを押し殺した顔で一万田が

「五郎様、次こそは我々が勝つように、これより一層励む所存であります!」と言った。

 徹底的にたたき潰して心を折るつもりが、闘志に火をつけてしまったようだ。


 あれ?火にガソリンぶちまけた結果になってね?


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 済んでしまったことは仕方がない。

 軍手は大量生産ができるので、この後 民間にも販売することにした。

 スパイクは材料が不足しているのと水虫が怖い(=農作物への伝染病の温床になるのも怖い)ので見送りとする。


『身につけるだけで力が強くなる魔法の手袋』ということで売り出すと戸次や一万田の兵たちも宣伝役となり、消耗品なので結構売れた。

 まあ、売れたと言っても農村にはそれほど金がないから山から取ってきた山菜などの現物交換ではあるが…。


 こうしていると、現れるのが転バイヤーとパチモン製品の販売者だ。

 昭和時代だとゴムひもを鞄にいれて「網走刑務所からお勤めを終えて来ました」と暴力を背景に不要な商品を買わせる押し売りというのがいた。

 戦国時代だと仮装をしただけで仏教関係者の振りができるがこれにあたる。


 フロイス日本史6巻の山口では「このお札を身につけておくと仏の力で刀はくにゃりと曲がる。戦場で助かりたければこれを買え」といういかさま商品を売るようなバk…純粋な愚か者が

「だったらお前で試してやろう」

 と武士に刀で脅されて逃げ出した話がある。


 こんななんちゃって仏教徒をこらしめても『迫害だー』とか『仏敵』とか言われるのだから宗教はたちが悪い。

 しかも、同様のことをしている豊臣秀吉、鍋島直茂、黒田長政、戸次道雪など江戸時代でもそれなりの地位にあった人間の悪口は書かれず、家を取り潰された大友家、大村家、有馬などだけが悪く書かれるのだから始末が悪い。


 ………恒例の脱線も終わった所で本題に入ろう。


 佐伯や湯布院、日田、果ては福岡などでパチモノ手袋を売ったり、正規品を10倍の値段で売る山伏が発見されたのである。

 各地の領主には通達をだしていたので、あまりにも悪質な者はお縄にした。

 こういう人間は口八丁手八丁で相手を乗せやすく何人かが被害にあっていた。

 ゴムのついてない手袋は逆に鍬とか握ってもすっぽ抜けるから危うく事故となるところだった。危ない危ない。


 こうして捕まえた詐欺師たちは府内に集められた。


「みせしめのために、処刑するのですか?」と長増が言う。

 その言葉に震え上がる山伏たち。

 たしかに、人を惑わせた無辺という売僧(詐欺師)を信長は処刑しているが、一度は許しているんだからそこまではしないよ。

 まあ、丸坊主にして棒たたき刑には処したみたいだけど。

 だが今回の件は予想されていたことだし被害者には弁済が済んでいる。

 なので俺は別の処罰を与えることにした。


「罰として、お前たちはこれより5年間。大友家の指定した商品を正規の値段で売る苦役を申しつける。報酬は売り上げの3割。最低限の食事はこちらで持つ。売る場所は大友領内に限る」


 その言葉にポカンとする山伏たち。


 他人が欲しいものを買い占めて値段をつり上げる転売やーは悪である。撲滅すべき存在だ。

 だが、彼らは売れそうなもの、金になりそうな者を見分ける民衆のニーズを見抜く目はあるといえる。

 おまけに、こちらが民衆に普及させようとしたのに広まらないものを売りつける才能は見事。


 その才能を生かす方法を考えた方が国の発展につながると考えたのだ。

米の買い占め金持ち転売ヤーと違い、こうした日用品の転売はその日の暮らしにも困る貧困層が関わっている場合もあるのではないかと思う。

そうした人間は止むに止まれず犯罪に走る場合もあるだろう。


 つまり、彼らを販売員として正式に雇って生活を安定させればこちらは輸送要員を確保できるし、彼らは堂々とものを売れる。

「よろしいのですか?」と吉岡が言う。


「生活が満ち足りるだけの収入があれば、犯罪に手を染めずに済んだものだっているだろう。それに、新製品を宣伝して売るという手間を引き受けてくれるならば、こっちだって助かる。いくら作っても売れなきゃ意味がないからな」

 ただ、一度犯罪に手を染めた人間は再犯のラインは低くなる可能性がある。そこで


 ・押し売りはしない。

 ・誇大広告はだめ。

 ・売り上げをごまかさない。


 以上の3つを守るなら、大友家お抱えの商売人として商品を供給することにした。

 この時代、農村の経済は死滅しているに近い。

 金のためにそんな遠方まで足を運んで売るバイタリティに期待したい所だ。

「ちなみに、ここでまた詐欺を働いた場合は残念だが」

「処刑ですか?処刑ですね?」と吉岡が言う。

 なんでそんなに処刑したいんだよ。というか、山伏たちを脅すためにわざと言ってるのか?


「…鉱山おくりだ。命の危険があるし、過酷な作業になるから覚悟しておくように」


 という事で、大友家は100人ほどセールスマンを採用した。

 真面目にやれば生活は安定するように待遇は改善したが、楽して稼ぐ道を憶えた小根は中々改善されないようで、10人が失踪。20人が不正を働いて鉱山送り。

 70人が残る結果となった。


 彼らは、その後 新商品が打ち止めとなると運送に特化して商売をするようになり宅配業の責任者へとシフトしたり、客のニーズを見抜いて新商品を発明したりするので、ひとまず成功といえるのではないだろうか…


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 そんなこんなで、季節も変わろうとしていた時、熊本で陣頭指揮を執っている小原から手紙が届いた。なんか慌てている。

「ふむ、何々…ほほう」

「何て書いてあるんですか?」

「読んで見ろ」

 と言って臼杵に渡す。

 未だにこの時代の書状って読めないんだよな。ミミズがのたくったような字だから。

「えーと、肥前の有馬殿からですな」

 肥前の有馬と言えばキリシタン大名で有名な家だ。まあこの時代は仏教徒だが。

 たしか島原半島の東半分を領地にしてて大村家とかに養子を送り勢力を伸ばしている家だったけか?

 その家から何の用だろう?


「どうやら肥前守護の小弐氏が滅亡したままなので、という要請のようですな」

「うん。『お断りだ』と伝えといて」

 俺は即答した。


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 もの凄くあまったるい考えですが、金さえあれば犯罪に走ろうとする人間は少ないと信じたい作者です。

 オレオレ詐欺の出し子とか、まともに就職できるように国が経済対策をしっかりと行い、犯罪よりも就職した方が長期的には得であるような社会なら、彼らが犯罪に手を染めることは無かったと思います。


 逆に、就職難で収入が無くなれば生きるために闇バイトに手を出さないと生活費を得ることができない人間だっているでしょう。

 犯罪者の増加とは金融政策失敗の結果であり、日本銀行はかなり真面目に景気対策をして欲しいものです。

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