第32話  大友宗麟 リモートで戦争をする

 コロナで自粛していた方、お疲れさまです。

 今回は現場に行けないときの仕事の経験を思い出しながら呪詛…もとい思い出を少し出します。

 あと、さまざまな人質の方の悲惨な末路を元に暗い話もプレゼントします。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 吉岡の爺様と小原を中心に肥後の菊池討伐軍が出発した。

 今回は史実と違って弟の八郎くんとベッキーも同伴である。

 さあ、これで戦争から解放されて別の事に集中できる。


 そう思っていた時期がありました。


「お屋形様。岡(竹田市)の志賀家より書状が届きました」

「吉岡様より、肥後の米相場と書状の追加以来、八郎さまより協力を申し出てきた領主の名が追加で送られております」


 戦争という人の生死がかかった仕事で、そんな楽できるわけないじゃんねー。と言わんばかりに報告書が送られ、濃密な戦争会議が毎日行われた。


 陣頭で指揮を取らない場合、基本的に前線から送られた情報をもとに、家老たちと相談して指示を出すのだが、携帯電話もスマホもないこの世界。手紙が到着した時点で現場の状況は変わっているかもしれない。

 なので、手紙を送るまでに情報がどう変化しているか想像しながら書状を考えないといけない。

 軍勢が来たとたんに大友家に味方すると言いだした領主の処遇についても

「今まで態度を明らかにしていなかったのに、こちらに付くと言うことは、大友の軍勢に勝てないと見たからだろうか?」という意見に

「保身の為に一時的な降伏だろう。時を見て裏切るかもしれない」という悲観的意見と

「菊池に味方する領主が思ったよりも少なくて援軍が来ないためだろう」という楽観的意見に分かれた。

 うーん。この場合どれだろう?

 実際の戦いを知っているさねえもんに聞けば楽勝だろうと楽観していたのだが…

「地方領主なんてから、常に書状で根回ししないと予想なんて無理ですよ」と言われた。

 役にたたねー。

 そんなわけで、こちらの仲間になった事への礼状と、状況が悪そうなら援軍を頼む書状と、逆に有利になっていた場合の高圧的な書状を毎日のように書かせている。

「宛名だけ独立して書ければ使い回しができるのですがねぇ」と残念そうに臼杵鑑続が言う。

 その合理的で無駄を省こうとする考え方、嫌いじゃないぜ。


 面倒だが、現場にいないからこそ味方が一人でも多く助かるように、できることは何でもやっておかないといけない。

 豊後の地で想像している肥後で何か見落としはないか?ここからでもできることは無いか?

 自分がさぼったせいで人死にが出るのではないかと考えたら不安で夜も眠れない。

 携帯のある時代でも、現場に行けないから職人さんに指示出してお任せしていたら、たまたま現場を通った同僚から『お前の現場、誰もいないけど大丈夫か?』と言われて確認した所、暑いからパチンコ屋に言ってサボってた。事があったもんなぁ…

 八郎くんもベッキーもまじめだからサボる事は無いと思うけど『図面を渡して仕事を依頼したら』おれとしては、というトラウマが消えない。


 人間の命がかかっていたらなおさらである。(大事な事なので2回言いました)


 うう…誰だよこんなストレスがたまりまくる時代を作った野郎は。

「足利家とその取り巻きですかねぇ」

「死ね!死んでしまえ!」

「もうとっくに死んでますよ」

 このごろ顔色がガリガリ悪くなっているようで、奥さんたちからも「ちょっと、少しは休んだ方がいいわよ」と謂われる始末だ。

 ここまでつらい思いをする位なら、監督時代ならば現場で指揮を執りたいと思っただろう。

だが、戦場では全くの役立たずになる自信があるので、ここで頑張るしかないのだ。

 頭痛ーい。

「旦那様、旦那様のお顔が優れませぬと、皆が不安になります。どうか休んでください」と奈多さんから謂われる。

 うう優しいなぁ。

「そうよ、だいたい人間なんてね、不利になっても裏切るけど、有利になったら勝った後の事を考えて、」と一色さんからも言われる。

 …都にお住まいだった貴族の娘さんは、言うことがちがはりますなぁ…。

 そういえば、戦争と裏切りの渦中にあった丹波の生まれだったね。一色さんは。

 余計に不安になってくるじゃないか…。

「ううう…俺のせいで誰も死んでほしくないよぉ…。せめてこちらに味方するっていった領主が裏切らないといいんだけど…」と泣き言だって出てくる。


「だったら裏切れないように

 あっさりと恐ろしい提案が出る。

 おまえの血は何色だ?

「なにをおっしゃいますか。国が離れているからお忘れでしょうけど、ワタクシだってイザという言う時には人質になる覚悟はございますのよ」と時代がかった口調で一色さんが言う。

 …………………戦国時代の女性怖い。

 奈多さんを見ると「父が裏切った場合、いつでも死ぬ覚悟は出来ています」という目で見つめてくる。

 やめて!リスのように儚い目でコンクリートよりも重たい覚悟をするのは!

 もっと見苦しいくらいに生に執着してよ!

 というか、死なれたら困る人間だから人質に出すんでしょ!身内が裏切るわけないじゃないか!

「そうでもないわよ?本当に大事な嫡子でも、第二子がいれば跡継ぎの心配はないし、死んだらかわいそうな幼児をわざと送り込んで、油断させた所を襲った方が成功率が高いからわざと…」ストップ!それ以上俺を人間嫌いにさせないで!

 というか、なんで二人とも性格は違うのに覚悟完了して意気投合しているの。


「「そういうふうに育てられましたから」」


  …………何の疑問も持たない目が怖いよ。

「要は人質なんて『心情的に消えたら嫌だけど、いなくなっても困らない人間』だと割り切って、人間は必ず裏切る位の心構えでいたほうが、裏切られたときに楽ですわよ」という。

 ひでえ。

「都では金に困った貴族が自分の娘を大名に身売りさせてますもの。飯と銭以上に大事なものなんてありませんわ」

 もうやめてー!私のSAN値はもうゼロよ!それ以上ひどい現実を……あれ?

「………………飯と銭以上に大事なものなんてありません…か…」

 …ふむ。

「ど、どうしましたの?」

「飯と銭がなければ戦争はできない。飯を取り上げたら裏切られるかもしれない…でも、あげても裏切られる…」

 俺は一色さんの両手をつかむと、じっと見つめた。

 なんかひらめいたかもしれない。

「な、なんですか?」

「外道な話をありがとう。おかげで領主の裏切りを防げるかもしれない」


 そう言うと、俺は家老を集めて再び相談する。


「どうだ?これなら少しだけ裏切りを防げると思うのだが」

「ふむ…うまくいくでしょうか?」

「いえ、これは良い案だと思いますよ。敵か味方かの判別にも使えますし」

 少しもめたが、成功しても失敗しても困らないと言う点で一致したため、実行することになった。

「いったい何を提案したんですか?」

 家老たちの会議に参加できなかった一色さんが問う。

 それに対して俺は


「国債…もとい、軍票を出すんだよ」と答えた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

劉邦が自分の息子を馬車から放り投げた逸話を聞いてから、筆者は人質と言うのは「…嫌な事件だったね」以上の効果はないと思っております。

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