脱出には失敗したけどお布団では寝られた。

 脱出には失敗したけどお布団では寝られた。

 脱出しようとしたら起きた同居人に引きずられてそのまま奴の布団に引きずり込まれて、そのまま朝まで。

 キサラギ、抱き枕じゃなくて一応人間なのに、なんで定期的に抱き枕にされるんだろか。

 朝起きたら同居人の機嫌が直っていた、一度寝ると機嫌が良くなるとか、単純になったなこいつ。

 昔はもうちょい根に持ってた。

 朝ごはんを一緒に食べて、同居人を見送ろうと思ったら外が騒がしいので2人で窓から覗いてみたら、帚星荘の手前でお隣さんと見知らぬ男が修羅場ってた。

 なんかお隣さんが一方的に責め立てられてたっぽい。

 同居人が面倒臭そうに溜息をついた、今から出るのに出入りする場所でトラブル起こされたからだろう。

 さてどうするか、と2人で顔を見合わせていたら魔力の気配が。

 男がお隣さんに闇属性の攻撃魔法を向けていた。

 とっさに窓を開けて結界術式刻んだキューブを窓からぶん投げた。

 キューブから展開された結界が男の闇魔法をしゅぽんと打ち消した。

 男とお隣さんがこちらに気付いて私達を見上げた、同居人が「よそでやれ」と怒鳴って窓から飛び降りた。

 靴はいてないのに。

 こっちから靴を投げてよこしてやろうかと思ったけど変なところ落としたら怒られそうだからやめておいた。

 キサラギが靴を持って降りようかとも思ったけど、そっちはさらに怒られそうだったのでおとなしく窓から様子を伺うことに。

 危なそうだったらまた窓から何か投げれば十分対応は可能だろうしって思った。

 同居人がお隣さんに状況を確認した。

 よく聞こえなかったけど、後から同居人に聞いた話を簡単にまとめると男はお隣さんの元上司だったっぽい。

 お隣さん、もともといろんな意味でブラックな職場にいたらしい。

 色々あって職場から逃げて帚星荘に転がり込んで来たんだけど、今朝出掛けようとしたところでどういうわけか元上司に見つかってしまったそうだ。

 元上司はお隣さんを無理矢理連れ帰ろうとしてお隣さんはそれに抵抗していた、というのが騒動の理由だった。

 元上司はどうあってもお隣さんを職場に戻そうとする気満々だったっぽい。

 けど滅茶苦茶に横暴だった、どうしても戻って来てほしいならそれなりに下手に出ればいいのに、なんかすごい嫌な感じだった。

 なんというかあんま思い出したくないから詳しくは書かないけど、お隣さんを完全に下……それも奴隷か何かと同等の扱いをしているように見えたんだよなあ。

 お隣さんは全力で嫌がっていた、そりゃそうだ。

 でもやっぱりなんか顔色悪そうだった、声も引きつってたし震えてた、多分怖かったんだと思う。

 それでも頑張って声を張り上げていた、もう戻らない、もうあなたのいいなりにはならないって。

 それでキレた男がまたお隣さんに向かって闇魔法をぶちかまそうとした。

 その時になってお隣さんと元上司の間に何かが入って来た。

 でっかい犬、あるいは狼。

 というかよく見ると一昨日お隣さんに突っかかっていた人狼らしきものだった。

 上から見てた感じだと、人狼らしきものはどうもお隣さんをかばうように割って入って来たように見えた。

 見えたんだけど……

 人狼らしきものが飛び出して来た瞬間、色々あってキャパが超えたらしきお隣さんが「でたあああぁぁぁあ!!!!??」って家の中で大量のゴキブリを発見してしまったような悲鳴をあげながら、人狼らしきものめがけていくつも錘を召喚して落としたの。

 ドガガガガガってすっごい音が響いた。アスファルトが滅茶苦茶になっていた。

 だけど人狼らしきものはどうやらツワモノだったらしく、避け切ったのか無傷。

 お隣さんは無傷の人狼らしきものを見てさらに動揺した「うわああああああああ!!」って叫びながら引き上げた錘を再び人狼らしきものに落とす。

 またハズレ、かと思いきや一個だけ右前足に命中していた。

 どうも骨が折れたらしく人狼らしきものはよろよろとふらつく、お隣さんは「トドメ!!」と叫びながら錘を人狼らしきものに落とそうとした。

 その時、人狼らしきものの姿が変化した。

 端的にいうと人間の男の姿になった。

 その人狼らしき男の姿を見たお隣さんが硬直した、それでそのままフラフラと後ろに下がってしゃがみこんで、嘔吐した。

 すごく苦しそうな声がこっちまで聞こえて来た。

 人狼らしき男はそんな様子のお隣さんを見て硬直していた、上からだとよく見えなかったんだけど、なんかすごい痛そうな顔してた。

 その直後に101号室のお爺さんが通報したらしき大家さんがすっ飛んで来て、その場は収められた。

 大家さんは軽く事情を問いただすとお隣さん、元上司、人狼らしき男を強制連行していった、なんでか道路の修復を命じられたので103号室のお姉さんと一緒にパパッと直した。

 ついでに壊れにくいように軽めの加護もつけといた、多分多少は頑丈になったと思う。

 降りて来た時になんでお隣さんが吐いたのか同居人に聞いてみたけど、同居人にも理由はよくわからなかったっぽい。

 修復作業が終わったあとキサラギは釈然としないまま仕事を開始した、同居人も釈然としない様子で狩場に行った。

 夕方になってご飯を食べた、今日は手羽先の照り焼きを作った。

 片付けをしてる途中で同居人が帰って来た、どうなったかって聞かれたけど、お隣さんはまだ帰ってこないから何もわからないって答えると釈然としてなさそうな顔をしていた。

 この時間になってもまだ帰ってくる気配がないから、なんか色々長引いているのかもしれない。

 お隣さん、大丈夫だろうか、主にメンタル。

 でも現状でキサラギにできることなんて一つもないし、帰って来たところで詳しくは聞かない方が良さそうな気がする。

 でも心身ともに無事に帰ってくるといいな。

 そう願いつつそろそろ寝る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る