8にゃす「にゃすのお願い」

 ここ一週間仕事でのミスが続いた。

 小さなミスで止まっているが、同僚には恋愛でもしているのか、と茶化された。

 原因は自分でも知っている、三週間が立ったが荷物が届いていないのだ。

 荷物の中身がやはりまずかったのか、にゃすに何か遭ったのか。心配でならないのだ。


 いつもの一駅ウォーキングも二週間が過ぎたところから、二駅に増やした。

 会いかたがわからないので、路地にいるかもしれないと探しながら帰った。今思えば、毎晩、夜遅くに路地をキョロキョロしているって不審者だ。見回りの人に声をかけられたら猫を探してると言おう、嘘ではないし。


 一週間前の土日は、母からの連絡を心待ちにしていた。

 スマートフォンが一瞬でも唸れば疾風のごとく、ロックを解除し確認した。

 日曜日の夜は気になって母に連絡をしてみた。


「お疲れ様、最近どう?」


 この時間なら、実家はリラックスタイムのハズだ。

 でも、返事が返ってきたのは随分ゆっくりだった。いや、そう感じただけで、そんなに間は空いてなかったのかもしれない。


 ブッ

 と唸ったスマートフォンを多分0.1秒で開いたと思う。


「はーい、変わりないのよーどうしたの?連絡くれるなんて珍しいわね。」

「うん、ちょっと気が向いてね」


 贈り物をしたことを言うか迷った。

 母の日の定型カーネーションと、誕生日の定型メッセージカード意外贈り物なんてしないので、恥ずかしい気持ちが大半だ。それと、贈り物はSNSに載せるネタにもなっていたので、後ろめたくもあった。


「そう、今も忙しいの?」

「そうだね、ぼちぼちかな?」

「たまには帰って来ていいのよ、そんなに遠くもないでしょ」


 そうなの、実家はそんなに遠くない。

 でもそれは現代文明を活用してだから、私が実家まで歩いたら8時間ぐらいはかかると思う。それも目的地が明確で舗装された歩きやすい道があるからだ。


 その後は他愛のないやりとりを数回して終わりにした。つくづく現金な娘だと思う。

 それにしても、母の反応を見る限り忘れてるそぶりもなかった。


 そんなことを思い出しながら、今日も不信な見回りが完了して玄関への階段を登っていた。

 今日はリカバリをキチンとして、早めに上がれたからワンチャンあるかな、と思ったが不発に終わった。


 階段を登り切って廊下を歩きながら、左手に持っていたカバンに手を入れ鍵を探す。なかなか見つからず、目線をカバンの中に落とした。


「わこ、にゃす」


 またもや突然声をかけられた。

 玄関のドアをチラ見したときないなかったと思うんだけど、目の前にあの小柄なグレーと茶色混じりのにゃすが現れた。

 ほっとして、その場にしゃがみ込んだ私の膝に、白手袋のふわふわの手を乗せて覗き込んできた。


「わこ、お願いがあるにゃす」

「はい、なんでしょう?」

「おとどけさきが、わからないにゃす」


 お届け物と、にゃすはどうやら無事なようだ。



 はー、膝に乗った肉球を全神経で感じようと、今日一集中した。

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