にゃすにゃすQ便〜おとどけするにゃ〜
襟井笠
1にゃす「白いもふもふが訪ねてきたんだけど」
ある休日の昼下がり。お日様はすっかり高く、昼食後のまったりタイムを昼寝でもして過ごそうと、日の当たる窓辺のソファーに腰掛けた。
入眠導入として、溜めていた雑誌を手に取り無造作にページを開く。通勤・着回しコーデOneWeek。そんな恋愛も仕事も楽しそうなOLを演じているモデルが羨ましい。通勤なんてスニーカーで行けたら幸せなのに、と思っていたら
ピッ ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
ネット通販の配達も頼んでないし、こんな昼下がりに誰だろう、何かの勧誘だったら困るなと考えていたらもう一度チャイムが鳴った。渋々ソファーから根が生えそうになっていた体を起こし、玄関に向かう。OL一人暮らしのリビングから玄関なんて数歩だが、それが億劫でしかたがなかった。
恐る恐るドアスコープを覗いて見ると、誰もいない。
「新手の
呟いた瞬間、またチャイムが静かに鳴った。怪奇現象?子どもの
向こうは気配を感じているのか、チャイムは一定間隔で鳴るのをやめないが、半押しで上手くならない場合もある。
鳴り止まない。どうしたもんかと考えて、左手に携帯電話を持ち、思い切って出て見ることにした。いざとなったら電話をかける、なんなら大声をあげるのも手段のうちの一つだ。敢えて平気なそぶりをして声を出しながら玄関を開けた。
ガチャガチャ
「はいはい、いますよー」
目の前の光景に少し驚いた。
それは晴れ澄んだ昼下がりの空と、隣の家の玄関ドアだった。
つまり、誰もいない。やはり怪奇現象か?
「うにゃうにゃ、にゃすにゃす」
何か猫のような鳴き声が聞こえた。もう一度呟いた、今度は聞き取れる。
「ハンコ、、、にゃすにゃす」
下方から発せられた音に反応して目線をぐっと下げると、開け放った玄関ドアの影にもふもふが覗き込むようにいた。私の顔を確認するとささっと、突っ掛けサンダルを履いた足元のすぐそばに来て、包み紙をがざっと地面に置き、二足で立ち振る舞った。
もふもふは、わたしの太ももより少し下、ひさ上ぐらいの背丈で、白くて尻尾が生えている。二足歩行の猫なのかもしれない。だが、顔がなんかふざけてる。全体像は猫に近いのだが、SNSでみるブサカワとか愛嬌ある猫とも違う、パーツが少しづつ異なっていて腑抜け感を醸しだしていた。
「ハンコ、、、にゃすにゃす!」
驚きと観察で固まっていたら、沈黙を打破し強要してきた。とはいえ、遠慮がちにその小さな両前足、もとい両手には
にゃすにゃすQ便 受領ハンコ台帳
と、タイトルが手書きされたポイントカードぐらいの大きさの紙が名刺交換のように差し出され、下部には十五の四角いマス目が並んでいた。どうやらここに印を押せば荷物が受け取れるらしい。
「にゃす、ハンコおにゃす」
じっと見つめてくる。
頭の中は混乱してる。
兎に角、今の状況を進展させるには怪しいその紙袋を受け取る方法しか見つからず、決断をしてカードを受け取った。手にじんわりと汗をかいていた。
「ちょ、ちょっと待ってて、ハンコ押してくるね」
「にゃす、おまちするにゃ」
あの腑抜けた顔がもっと柔和になったと思ったら、四足になって自分の背中を舐め始めた。その仕草にこちらもほんのり気が緩んだ。
ま、とにかく可笑しなことに遭遇していることは確かだ。
でも、警察に言っても信じてもらえる案件ではないし、もしかしたら夢かもしれない。そう思いながら部屋に戻り、引き出しの一番上に入ってる簡易的なネーム印を手に取り、カードに印を押してもう一度玄関を開けた。
二足でそわそわと待っていた様子だ。
「はいどうぞ」
かかとを浮かせて屈み、カードをその小さな手に戻すと、印を眺めた。なんだか嬉しそうだ。よく漫画とかにあるぽあぽあした効果のような物が見える。見えた、気がする。
「たみこから、おとどけものにゃす」
やっと目的を言ってくれたようで、地面に置いた包み紙を手渡してくれた。包み紙は角が二箇所ぐらい凹んでいて、全体的に薄汚れいていたが、それより、小さなもふもふの手がとっても可愛くて、それどころではなかった。
その軽い包み紙を受け取ると、もふもふはくるっと回り二足でとてとてと少し歩いた後、風の如く四足で駆け出していった。
立ち上がろうとした瞬間、骨に響くほどの尻餅を
ああ、今日もいい天気だ。
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