【罪なき罪】
それは
自らの罪に向き合い吐き出す場所。
そこに彼女は言った。
主人番号000
またの名を、
マリー・マドレーヌ。
マグダラのマリアの名を知らない人間はいない。
人類史上もっとも人を死に追いやった女。
その数およそ100万人。
個人の殺人としては人類史上ありえない数である。
ただそれが殺人であるなら。
この女の為だけに、
世界共通法が出来るきっかけになった女性。
世界共通法第一条
公衆の面前に出てはいけない。
この女の懺悔を聞く神父は、
重防御服に身を包み恐怖と戦っていた。
どちらが囚人なのかわからない有り様である。
懺悔室は一般的に壁に阻まれ、
神父と顔を合わせないようになっている。
とは言え
あくまでプライバシー保護の観点からである。
だがこの懺悔室の壁は重金属で、
その厚さ約1メートル。
壁には懺悔室には普通ある、
声を通す穴はない。
スピーカーで通信するようになっているほどの
徹底ぶりである。
猛獣でもここまでのセキュリティーはしない。
それだけ今神父が相対している相手は、
危険なのだ。
人類史上いや生物史上もっとも危険な女。
それが
【マリー・マドレーヌ、
懺悔室の特質上顔は見えないが、その女が今、
壁を
神父は
彼女に話しかけた。
「あなたの話を聞かせて下さい」
壁の向こうの囚人は静かに語り始めた。
「
私の罪を告白します。
私の罪は、罪がわからないこと」
神父はたずねる。
「あなたの言う罪とは?」
「100万人を殺したこと」
ぽつりぽつりと漏れる言葉を、
神父は静かに待った。
「罪を罪だと思えないこと、
罪が無いことが私の罪! 」
重犯罪を犯した者の中には、
自分の罪が分からない者は多い。
「100万人殺そうと、
懺悔出来ない事が私の罪です」
神父は主観を言わない。
あくまで相手の話を聞くだけ。
そう懺悔室とは説法する場所ではなく、
あくまで相手の話を聞く場所なのだ。
その意味では神父は神父だった。
「それでも、あなたは苦悩している」
その言葉の重みなのか、
壁の向こうでしばし無言になった。
そして囚人は静かに語りだした。
自らの罪を。
罪なき罪を。
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