第9話 町はずれにて
俺はギルドから追い出され、とぼとぼと街を歩いていた。
ちくしょう。
剣と魔法を使えないだけでなんでこうなるんだ。
せっかく修行もして強くなったと思ったのに。
やはり雑魚の俺にとってギルドに入るというのはただの夢でしかないのだろうか。
いや、諦めるのはまだ早い。
シュナイダーズ以外にも他にもギルドはある。
他のギルドなら俺を受け入れてくれるかもしれない。
もう少しギルドを回ってみよう。
***
「ちくしょ~!」
俺は酒場でビールを飲みながらそう叫んだ。
それから3日間かけてありとあらゆるギルドに加入申請をしてみた。
結果、それらの全ギルドに加入を断られた。
身だしなみを整えたおかげか、大体のギルドで第一印象はいいのだ。俺を入れようとしてくれるギルドもあった。しかしどのギルドも、俺が剣と魔法の才能を一切持っていないことを知ると途端にギルド加入を拒むのだ。
やってられるか!
自分を全否定された気持ちになったので、今日は昼から酒場にきてやけ酒をしているというわけだ。
「アイリーンもギルドの連中も、なんで俺を受け入れてくれねーんだ……」
酒場でぶつぶつと独り言を漏らす。
周りから見たら相当ヤバいやつだろう。
だがそんなの気にならないほど、心がどん底まで沈んでいた。
「誰でもいいから俺を受け入れてくれ……」
まあこんなゴミカス雑魚を受け入れてくれるとこなんてないか……
そうだよな……。
はぁ……。
なんだか酒を飲んでも、劣等感が増すばかりだ。
酒はここらへんでやめておこう……。
俺は代金を支払って、酒場を後にした。
まだ真昼間の街を特に行く当てもなくふらふら歩く。
「はぁ……」
なぜどのギルドも拳で戦う戦闘スタイルを認めないのだろう。
というか認める認めない以前に、拳で戦えるわけがないと思い込んでるよなぁ。
俺、少なくともCランクの魔物は倒せるのに。
ああ。
どこかに、剣も魔法も使えなくても加入可能な、都合のいいギルドでもないかなぁ……。
なんてことを考えながら歩いていると、気づけば街のはずれまで来ていた。
ほとんど建物がないような道を歩いているうちに、だんだんと酔いもさめてくる。
こんなとこ歩いてても仕方ないし、戻るか。
そう思ったとき、ひとつの建物が目についた。
古びた木造建築の家で、ところどころ崩れ落ちて修繕された跡がある。
その家の入口には『ギルド』と書いてあった。
これ、ギルドなのか……?
誰も住んでなさそうなこの古い建物が……? しかもこんな町はずれに……。
かなり変わったギルドだな。
……待てよ。
これぐらい変わったギルドならもしかして俺を加入させてくれるんじゃないか?
そうだ!
かなり怪しげだけど、もうギルドに入れるならなんでもいいや!
俺は誘われるように、その古い建物への入り口に近づいた。
コンコンと、古びた扉をノックする。
「……」
特に反応はない。
やっぱ人なんか住んでないただの廃墟なのか……?
俺は試しにノブを掴んで扉を押してみた。
木材がきしむ音をたてながら扉が開いた。
鍵はかかってないのか……。
よし、入ってみよう。
俺はその建物に足を踏み入れた。
「あれ、思ったよりきれいだ」
建物の中は外観よりもきれいで、ほこりひとつない廊下が続いている。廊下の突き当りに扉があった。
この綺麗さを見るに、やっぱ人が住んでるのかもしれないな……。
まあ進んでみよう。
俺は廊下を歩く、一歩歩くたびギシギシと床が鳴った。
そして突き当りの扉に到着する。
人がいるとしたらこの扉の向こうだろう。
俺は恐る恐るその扉を開けてみた。
その部屋の真ん中には大きなテーブルが置かれている。そしてその横にはポツンと置かれたソファー。なんの変哲もない。いたって普通の部屋。
けれど、そこがあまりにも異質に感じられたのは、一人の少女がそこにいたからだろう。
少女はソファの上で剣を磨いていた。
その少女を見たとき、俺は身体も精神も止まってしまっていた。
———不覚にも見惚れてしまった。
その少女は俺に気づくと、剣を下ろして顔を上げた。
「なんか用?」
端正な顔立ち。流れる紫色の髪。綺麗な紫色の瞳。
歳は俺と同じくらいだろうか。
どこにでもいる冒険者風の格好をしているのに、まるで違って見えた。
「いや、その……」
思わず言葉を詰まらせてしまう。
少女は不審がるような視線を送ってくる。
「依頼? それとも、あんたも嫌がらせしにでもきた?」
少女は、投げやりにそう言う。
嫌がらせ? なんでそうなるんだ?
つーか、見た目はおとなしそうなのに、なかなか気が強いなこの子。
「そんなんじゃない。俺はこのギルドに入りたいんだ」
と、そう言った。
あ、つい思わず本題を言っちゃった。
少女はぽかんと口を開けている。
いきなりこんなこと言って、絶対ヤバいやつだと思われたよな……。
まあいいや。言ってしまったものは仕方ない。どうにかギルドに入れてもらえるよう頼んでみよう。
少女は、腕を組み、言葉を発した。
「はぁ? いきなり何? うちは別にメンバー募集なんかしてないんだけど」
「そこをなんとか頼む!」
「あんた、うちがどういうギルドだかわかってんの?」
「いや全然知らん」
「知らんって、あんたねぇ……」
少女はあきれたようにため息をつく。
「うちはギルドメンバーが私一人、しかも見ての通り、唯一のギルドメンバーの私はマゼルダ族の末裔、町中の嫌われ者。そんなギルドなのよ?」
少女は自身の紫色の髪を触りながら、そう言った。
マゼルダ族か。
聞いたことがある。
———紫髪のマゼルダ族。
遥か昔、人族のある種族が大きな力を望むあまり、魔族と関係を持った。結果その種族は大きな力を手にしたがその力を他の人族に恐れられて、一晩にして全人族によって滅ばされたという。
その種族こそがマゼルダ族だ。
滅ぼされたマゼルダ族の生き残りの末裔は今でも差別を受けているという。
マゼルダ族の特徴は紫色の髪だ。どこか不気味なその色も差別を助長する要素となっているのだろう。
国によってマゼルダ族に対する価値観は異なる。俺の国ではそこまでマゼルダ族を差別することはなかったが、どうやらこの国ではマゼルダ族を強く差別する風潮でもあるらしい。
多くの人に避けられ、受け入れてもらえない。
それ俺と同じじゃん。
好きな人には拒絶され、どのギルドにも受け入れてもらえない。
ひどい話だよな。わかる。
「俺は別にマゼルダ族なんて気にしないぞ。それにその髪だって綺麗な色じゃん」
「な、な、急になんなのよあんた」
少女はふいと顔を逸らしてしまう。
心なしか頬が赤く染まっているように見えた。
「それに、あんたがよくても私が嫌なの! なんで突然やってきた人をギルドに入れなきゃいけないのよ!」
「……まあ、それもそうか」
少女の言うこともしごくまっとうだった。
返す言葉もない。
俺が何も言い返せずただ立ち尽くしていると、少女がふと「はぁ」とため息をつき頭を掻きながら言った。
「そうね……。でもそこまで言うなら考えてあげないこともないわ」
「おお、本当か!」
少女は不本意そうな表情でそう言う。
相変わらず上から目線のセリフだったが、嬉しい言葉だった。
俺は思わず前のめりになる。
すると少女は人差し指をピシッと立てた。
「ただし条件があるわ」
少女はにやりと笑いながらそう言った。
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