22話「風呂場での戯れと」
22話「風呂場での戯れと」
「おまえ………何でそんなに離れてんだよ」
「…………」
「小さい頃はよく一緒に入ってただろ?」
「それは子どもの頃だったでしょ?!」
響は浴槽の端に寄り、千絃から離れるようにして背を向けて座っていた。
恋人になってまだ数日。そして、まだ裸など見たこともないのに、何故一緒に入らなければならないのだろうか、と響は千絃を睨み付けたいぐらい恥ずかしい思いをしていた。
怪我の抜糸が終わった後。
響を迎えに来た千絃は、そのまま彼の部屋へと連れていった。そして、千絃にキスした後「じゃあ、約束通り綺麗にしてやる」と、風呂に入ろうとしたのだ。響は何度も拒否したけれど、彼も意思を曲げず、響の服を脱がそうとし始めたのだ。千絃は「自分で脱がないなら、そのままベットに連れていく」と言われてしまい、響はやむなく彼に隠れて服を脱いで急いで風呂場まで逃げたのだ。
けれど、彼が風呂場に入ってくるのは当然の事で。響はさっきから体を丸めて座るしか出来なかった。
「………おいっ」
「っ!………キャアっ!!」
響の体を千絃が引き寄せ、千絃は後ろから抱きしめるように体を寄せた。
「……どうせ今から全部見ることになるんだから、もう諦めろ」
「………そ、そうかもしれないけど……明るい所は恥ずかしいのよ」
「はいはい」
何を言ってもダメだと思ったのか、千絃はスポンジを取り出して、そこにボディソープを垂らす。すると、そこから華やかな香りが浴室に広がってきた。彼はそれをお湯の中に入れると、泡を作り響の肩に当てる。
「え!?千絃……何でお風呂の中で洗ってるの?」
「おまえ、上がって体見られるの嫌なんだろ?だからここでやるしかないだろ?ここなら後ろからだし見えなくていいだろ」
「………そう、だけど………」
響は反論したい気持ちもあったけれど、それでも彼が優しくいたわるようにして体に触れてくれると、どうもくすくったくも心地がよく感じてしまうのだ。自分でもわかっている。
止めて欲しくない。そう思ってしまっていると。
「………ぁ………」
少し声が漏れただけで、風呂場に声が響く。それが何とも快楽的で、響は思わず自分で体が震えてしまう。そんな響に気づいている千絃だったが、何も言わずにゆっくりと泡を響の肌に滑らせていく。くすぐったさで鳥肌が立ちそうになってしまう。
「千絃。後は自分でやるから………」
「あと少しだから」
「恥ずかしいから、そこはダメ!」
響の敏感な部分に千絃の手が伸びそうになり、響は慌てて彼からスポンジを取り上げた。響が振り替えって睨み付けようとするけれど、目が潤んでしまい、全く反抗の効果はなかったようだった。彼は満足そうに微笑むと、ゴシゴシと体を洗い始めた響を面白そうに見つめていたのだった。
響は千絃を何とか先にお風呂から出して、一人でシャワーを浴びていた。
「もう………千絃のえっち………!!」
響はお風呂に長く浸かりすぎたわけではないのに熱くなり火照った体に、少し冷たいお湯をかけながら、そう一人呟いた。
まさか、本当に全身体を綺麗にされるとは思っていなかっただけに、響は逃げてしまった。けれど、これからの事を考えてしまうと、響は体の奥がきゅんとなった。
そして、自分がこんなにも快楽に弱いのだと知って、ため息が出そうにもなる。
けれど、きっと響の事を待っているであろう千絃の元に、響は早く向かいたくて、シャワーの水を止めて浴室から出たのだった。
「………水。随分長く入ってたから、暑くなっただろ?」
「あ、うん……。ありがとう」
浴室から出ると、すでに千絃の大きめのシャツが置いてあった。それに袖を通すと、先ほどのボディソープの香りとは違った彼の香りに包まれる。それが、これから彼に抱かれるのだと改めて感じさせられるもので、また瞳が潤んでくるのがわかった。
それでも、必死に平常心で居ようと響はぐっと体の力が抜けそうになるのを必死で堪えた。
彼が準備してくれた水のペットボトルと貰うと、千絃はジーッと響の事を見ていた。
「………おまえ、体冷えてないか?」
「っ………」
彼の手が突然響の頬に触れたので、響は体がビクッと震えてしまった。
千絃は少し目を開いて響を見ていた。彼に触れられただけで敏感に反応してしまったというのを彼に察知されないように、咄嗟に言葉を発した。けれど、焦っているから少し早口になってしまう。
「こ、これは……少し熱くなりすぎたから、冷たいシャワーを浴びたの!だから、大丈夫だよ。最近はとっても暑い、丁度いいから」
「…………確かに、丁度いいな。どうせ、今からまた熱くなるんだ」
「……ぇ………ん…………」
響が返事の声をあげる前に、その言葉は彼に唇ごと飲み込まれてしまった。
軽いキスを何度かすると、彼はゆっくりと響の瞳を見つめながら唇を離した。それでも彼との距離はとても近い。
「風呂場で気持ちよくなったんだ。これからの事を期待してただろ?」
「そんな事は………」
「俺は期待してた。………だから、今日はもう逃がさない。ずっと待ってたんだ。後はおまえを貰うだけだ」
そう言うと、千絃は響の手を引いて足早に寝室へと向かった。
そして、千絃をベッドに押し倒すと、またキスの雨を降らせていく。
彼の手が頬から首筋、そして服の中に侵入してくると、甘い痺れから体が震える。
こうなることを期待していなかったわけではないけれど、いざ千絃とこのような関係になると思うと緊張が高まっていく。
目の前にいるのは、変わらぬ幼馴染みであるのに、いつもとは違う大人の男なっている。瞳はギラつき、響の体を貪欲に求めてる。そして、それだけではなく響が快楽を求め、震える姿を見て楽しみ、喜んでいるようにも見える。
「悪い………」
「……………え?」
「長年の夢が叶う時だから、抑えが効かない。まぁ、抑えるつもりは元々ないから。ずっと俺を我慢させていた責任をとって」
「ん……………あ………待って……」
「これ以上待てないっ!!」
「………っっ…………」
体の奥底で彼を感じ、響は声にならない悲鳴を上げた。
その苦しささえも愛おしく、そして気持ちよささえも胸を締めつけられる。
何度も何度も彼に名前を呼ばれ、耳を舐められ、キスを求められる。
自分を求めてくれるのが、好きな人だなんてとても幸福な事だ。
けれど、そんな事を考える暇もないままに、響は彼の熱に溺れ、幾度も彼の名前を呼んで求めたのだった。
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