472球目 甲子園出場は夢じゃない

 ストレートとほぼ同じ腕の振りで投げられたと思う。もう打たんといてくれ。



 上村うえむらのバットの出が早い。すぐ修正しようとしても、もう間に合わない。110キロぐらいのチェンジアップが東代とうだいのミットに入った。



「ストラックアウト! ゲームセットォ!!」



 ゲームセットが聞こえた。勝った、勝ったんだ。



「ナイスピッチン!」

「胴上げやぁ!」

「サイコー!」

「史上最強投手!」

「凄いな」



 内野陣(主に番馬ばんばさん)が俺を胴上げする。あの大きな入道雲が近づいては遠ざかる。これが、兵庫県ナンバーワンの高見たかみか?



 四方八方から聞こえる拍手と歓声で、浜甲はまこうナインの笑顔と涙が混じる。ここまで長くて大変だったけど、本当に良かった。



 ※※※



 神戸こうべポートタウン大学付属の選手たちは、あ然として立ち尽くしている。ただ1人、黄崎きざきだけが固めた拳で地面を叩く。



「クソッ、クソッ! 番馬ばんばにホームラン打たれんかったら!」


「落ち着きなさい、黄崎きざき。整列しとるぞ」


「あっ、すいまへん」



 村下むらした監督は、久しぶりに野球は面白いと思った。データ通りにいかない、筋書きのないシーソーゲームは、彼の幼少期の記憶を呼び戻す。難しい思考はなく、がむしゃらに白球を追いかけていたあの頃を。



「もっと勝たせたかったなぁ……」



 データ至上主義にとらわれていなければ、もっと選手達を活躍させられたかもしれない。



「ありがとうございましたぁ!」



 兵庫県162校の頂点に立ったのは、私立浜甲はまこう学園である。



浜甲学園000 010 200 100 4……8

ポート大101 000 001 100 3……7



(7回裏終了)

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