349球目 ワニ革の財布にしたくない

 長打が出にくい低目を突き、打ちやすい高目はボール球にする。東代とうだいのリードは間違っちゃあいない。



 しかし、二回り目の臨港りんこう学園打線は、すぐに対応してきた。



 1番はたの打球はあわやホームランのライトフライ。火星ひぼしの手が伸びてなかったらスタンドインだった。



 2番緑川みどりかわ津灯つとうのグローブをはじくヒット。



 3番夜鹿よじかはデッドボールスレスレのストレートをライトへ打ち、1死1・3塁になってしまう。



「4番サード鰐部わにべ君」



 鰐部わにべの顔が掃除機で座れたように細長く伸び、人肌が苔むした岩みたくごつごつした深緑色に変わる。彼の口が大きく開き、細長い爬虫類特有の瞳で俺を見つめてくる。



「ハハハハハ! 今度こそホームランや!」


「アホが! ヒットでええんじゃ、ヒットでー!」



 ホームランを狙う打者と、ヒットを望む監督、意思疎通そつうが取れてないぞ。



 まぁ、そんなことはどうだっていい。初球にバルカンチェンジのサインが出た。ネコのイメージを浮かべて投げるぞ。リラックス、にゃんこ、チーター、トラ、ヨシ!



 鰐部わにべの好きなインコースへ投げる。見た目と違い、ワニ男がしなやかにバットを振ってきた。



(続く)

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