127球目 ミラクル・トニオ・ブラザーズは単発じゃない

 3回表の浜甲はまこうの攻撃は烏丸からすまの内野安打、火星ひぼし四球フォアボール東代とうだいの送りバントで、1死2・3塁の大チャンスを迎えた。



 打席に入った宅部やかべは、飯卯いいぼう監督から2球目スクイズ(投球と同時に3塁ランナーが走り、打者がバントをすること)のサインを受け取る。かつてバントのサインを出す監督に腹を立てた彼だが、ここは素直にしたがう。天塩あまじおの豪速球を打ち返す自信はなかったのだ。



「リーリーカーカー」



 3塁ランナーの烏丸からすまが翼をばたつかせて、盛んに投手の集中力を奪おうとする。天塩あまじおはロージンバックを手に取り、宅部やかべを睨みつける。



「サーコー!」



 ベイルが大きく両手を広げ、天塩あまじお鼓舞こぶする。天塩あまじおはロージンバックをマウンドに叩きつけ、セット・ポジションで構える。



 天塩あまじおが左足を上げたと同時に、烏丸からすまがスタートを切る。宅部やかべはバントの構えをする。天塩あまじおはすかさず大きく外す。烏丸からすまは三本間の途中で止まり、3塁へ戻る。偽走だ。



「私なら4球連続でウエストボールを投げるね。満塁フルベースにしてから、2番のデヴィッド勝負だ」



 刈摩かるまはケーキの上のイチゴをなめながら喋る。



 2番の真池まいけはバントしか出来ないので、満塁にするとスクイズ成功率が低くなる。満塁の場合、守備側はベースを踏むだけでランナーを殺せるからだ。



 宅部やかべはさっきのウエストボールの位置を頭に入れる。彼の頭の中では、ミラクル・トニオ・ブラザーズのゲームプレイが再生される。



 Aボタンでジャンプ、矢印の→ボタンで空中のアイテムをゲットできる。それを再現するだけだ。



 天塩あまじおは2球目もウエストボールを投げる。烏丸からすまは走りながら羽ばたく。宅部やかべは地面を蹴って、ウエストボールに食らいつく。



 フォーシームなら、宅部やかべのバットにかすらなかった。



 だが、ツーシームはシュート回転して、宅部やかべのバットの先端に当たった。



(続く)


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