17球目 キツネとタヌキは仲が悪くない

 不良グループと津灯つとうは、海岸沿いの公園でたむろしていた。東屋あずまやの下で、相撲力士みたいに長身で腹が出た男と、ガリガリキツネ男と、ポッチャリタヌキ女の3人は、津灯つとうを取り囲んでいる。



「ちょっと、あんたら、あたいらの、津灯つとうちゃん、返せ!」



 千井田ちいださんは荒い息づかいで叫ぶ。ここまでチーター化して飛ばしてきたから、バテバテである。公園近くになると、俺達の駆け足より遅かったからな。



「何やネコちゃんか。ネコちゃんにはマタタビあげるね」



 タヌキ女がマタタビを放り投げる。



「そんなものにあたいが釣られるとでも、うっ、ふにゃあん」



 まさに即落ち2コマだ。千井田ちいださんはマタタビに顔をうずめて、赤ちゃんみたいな笑顔を見せる。



「それ、実は、うちの親父の靴下くつしたなんやけど、そんないい臭いなんかなぁ」


「くっ、くつ下? く、く、くさぁ!」



 マタタビが黄ばんだ靴下くつしたに変わり、千井田ちいださんは白目を向いて気絶する。さすがはタヌキの化け術だ。



「お前ら2人はワシが相手や」


「サイエンスを極めた私が、ジャパニーズフォックスのイリュージョンに負けません」


 

 東代とうだいはモノクルを光らせて、キツネ男と対峙する。



「あんた、IQ高そうやな。じゃ、ワシの幻術げんじゅつ見せるんは、違う奴にするか」



 キツネが葉っぱをまき散らす。目くらましかと思いきや、地響きが起こる。



「ワンワンワンワン!」



 公園のあちらこちらから、犬たちが駆けてくる。犬軍団は東代とうだいに群がり、押し倒して、体中をペロペロなめ始める。



「ハハハ。あんたが骨付き肉に見えるよ、犬に幻術かけたんや」



 東代とうだいは犬に埋もれて戦闘不能、これで残るは俺1人だ。



「さぁ、あんたを倒してシメとするか」


「なぁ、キツネさん。俺と手を組んで、あの先輩が津灯つとうに勝てるようしてくれないか?」


「へっ? あんた、ワシと戦わへんの? せっかく、虎威狐爪こいこそう狐火乱舞こびらんぶを練習してきたのに」



 キツネは眉をひそめて、人間の顔に戻っていく。その顔は、昨日、野球場の近くにいたカップルの男の方だった。



「おそらく、津灯つとうのことだから、あの先輩と野球部入部を賭けた勝負をするだろう。その時にジャマしてほしいんだ」


「ハハハ。味方を裏切るなんて、あんた、ワシ以上にキツネやな」



 俺とキツネはどす黒い握手を交わす。



(水宮入部まであと5人)

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