15球目 ガキの使いやない

 今日は、高校生活や部活について、色んな説明を聞いた。クラスメイトは新しい生活に顔を輝かせているが、俺だけはどんよりくもり顔だ。今日も野球部員集めに付き合わされる。とてもユーウツだ。



 終礼が終わり、荷物をまとめていると、千井田ちいださんが教室に入ってきた。俺の机に千円札をバーンと激しく置いて言う。



水宮みずみや! あたいら弁当買うの忘れとったやん。悪いけど、食堂で買うてきてくれへん? お釣りはもろうていいから」



 まだ野球部員じゃない俺がパシリをするのは、かなり不当な扱いだ。とは言え、千井田ちいださんを怒らせると怖いから、素直に引き受けよう。



「いいですよ。ところで、千井田さんは昨日、夜更かししましたか?」



 彼女の目の下にはくまが出来ている。顔も少したるんでいてお疲れモードだ。



「せやねん。昨日、録りだめしたドラマ見てたら、深夜3時ぐらいまで起きとったやん」


「あー、そうなんですか。体調に気を付けて下さいよ」


「うん。ほな、また後でやん」



 彼女が鼻歌を歌いながら去っていく。去年は下級生に色々とお願いできたが、今は上級生のお願いに応えなければならない立場の逆転。



 こればっかりは、どの部活に入っても同じだから、一息吐いてから食堂へ向かう。



※※※



 食堂はたくさんの生徒でごった返している。俺は2人の女性を気づかい、ヘルシー弁当の列に並んだ。



「コラ―、水宮みずみや! この割引券使えへんやん! めっちゃ恥かいたやん」



 般若とチーターを融合させた顔が、牙をむき出して走ってくる。



「割引券て、一体何のことですか?」


「とぼけんな! さっき、あたいのクラスに来て、食堂の新学期キャンペーンの割引券あげます言うたやん」


「えっ? 千井田ちいださんがこっちに来たんですよ?」



 話が食い違って平行線だ。ドッペルゲンガーでも出ないかぎり、今日の俺は千井田ちいださんに会いに行ってない。



「ホワット? 2人ともミス・ツトーはどうしたんですか?」



 フランクフルトを持った東代とうだいが、俺達の話に割って入る。



津灯つとうちゃん? 今日は1回も見かけてへんけど」


「それはストレンジ奇妙。私は、お2人がミス・ツトーと一緒にゲート校門から出たのをルッキングしました」



 三者三様に意見が食い違っている。俺の脳みそは火山爆発を起こしそうだ。



(水宮入部まであと5人)

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