第31話

「お、帰ってきたか」

「けいくん、お待たせー」


 少しの時間が経って結衣は戻ってきた。


「で、なんの映画だったんだ?」

「えっとね今話題の恋愛物だったよ」

「今話題って言ったら、あれか。君の心臓を奪いたい」

「そうそう」

「じゃあ俺は早速チケットを買いに行ってくるよ」

「うん!」


 俺は一旦結衣と離れてチケットを買いに行った。チケットを買いに行くのは一人でいいしな。


「お待たせ……。ん?」


 俺がチケットを買って戻ってくると、結衣が変な男たちに話しかけられていた。


「なあなあいいじゃん? 俺たちと遊ぼうぜ」

「嫌です! 私連れがいますので」

「どこにも見当たらないじゃん」

「俺がこいつの連れだ」


 俺は結衣を男たちから隠すように割って入った。


「ちっ。つまんねえの。行くぞー」


 俺が入ると、男たちはどこかに行った。


「大丈夫だったか?」

「うん! 全然平気だよ。けいくんがくると思ってたし」

「まあそりゃあ結衣が困ってたら駆けつけるけど」

「でしょ!」


 彼女が困ってて駆けつけない彼氏なんていないと思うけど。


「じゃあチケットも買ってきたし、映画を見に行くか」

「だな。今日の目的を達成するために」


 俺たちはそう言って映画を見にスクリーン場に入った。


「えっと二人はどこにいるかな?」

「うーん……、あっ! いたぞ」


 俺は二人を探せるように少し後ろめの席を取った。

 そのおかげか二人はちゃんと前にいた。1番見やすい真ん中近くの席を取っていた。


「でもここからだったら二人の表情見えないよね」

「ああ、それはもう有紗さんに任せよう」

「そうだね。——じゃあ私たちは映画を楽しむとしますか」

「まぁここに居たら逃げられる事はないだろうし」


 俺たちは二人の表情が見えないため、気にしても仕方がないと言うことになり、普通に映画を楽しむことにした。


「う、う……。いい話だったね」

「そうだな……」


 映画を見終わると結衣はボロボロ涙を流していた。

 確かにいい話だったけども、そんなに泣いて大丈夫なのか。そんなことが心配になった。


「あ、おい! 二人が行ってしまうぞ」

「も、もう少し余韻に浸らせてよー」

「ダメだ。今日の目的があるだろ」

「そんなー」


 聡太の感情を顔に出させるつもりが、結衣が顔に出してどうするんだ。


「次はご飯を食べるみたいだな」

「ここって普通のファミレスだよね」


 歩いているうちに結衣は少しずつ落ち着いてきていた。

 それから普通に尾行を続けていると、二人はファミレスに入って行った。学生といえばって感じのところだな。


「でもここなら隠れながら二人観察できるな」

「だね。二人きりだったらどんな会話するか気になるな」


 俺たちは二人に出来るだけ近く、バレない場所に席を取った。


「ギリギリ声が聞こえてくるな」

「うん。耳を澄ましてると聞こえてくる」


 ギリギリ聞こえる距離だったので、二人の会話を聞くことにした。


『どうだった? さっきの映画は』

『面白かったと思うぞ。あそこからの急展開にはビックリしたし』

『そうなの? ほとんど表情変えなかったから面白くないかと』

『俺が顔に出ないって知ってるのに、よくそんな事を言ってくるよな。有紗は』


 まあまずは映画の感想だった。思った以上に普通の会話をしていた。


『有紗はどうだった?』

『十分面白かったわよ』

『そうやって強がってるけど、泣いてたよな』

『見てたの⁉︎』

『ああ、最初の方は俺の方チラチラと見てきてたのに、途中から視線を感じなくなったから、有紗の方を見てみたらすっかり泣いてたからな』

『もう。恥ずかしい』

『いいじゃねえか。有紗の泣き顔なんてよく見るぞ。特に恋愛映画とか見てる時なら尚更』


 そんな会話が聞こえてきた。


「有紗ちゃんって涙腺弱い方なんだね」

「らしいな。ちょっと意外だけど」


 有紗さんは泣いてたらしいけど、聡太の顔はほとんど変わらなかったらしい。

 そしてまた聞き耳を立てようとするとメールが届いた。


「有紗ちゃんからメールが届いたよ」

「内容は?」

「えっとね。『ここから作戦の二個目に移るから見てなさい』だって」

「へー。次は何するんだろうな」


 有紗さんはメールでは結構自信ありげだったので期待して見ることにした。

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