第19話ですわ!



「このゲームがプレイヤーをNPCにしてる……みたいに聞こえるんだけど……そんな事できるものなの?」

「どうでしょうか……。もしかしたらデータが混ざっているのかもしれませんけれど……」

「うーん、やっぱりただの不具合かもしれない、って事?」

「はい……。このままではすっきりしないのですが、自分がNPCとして、悪役令嬢キャロラインとしてエルミーさんを虐め抜き、卒業パーティーでハイル様からこれまでの悪行を暴露され、更には婚約破棄を言い渡され、逆ギレしてエルミーさんに襲いかかり返り討ちにされて死ぬ……というのは分かっております」

「え!?」


 とても驚いた顔をされてしまいましたわ。

 あ、そうか。

 エイラン様は『編入』プレイヤーですから、ビギナーキャンペーンシナリオはやってないんですよね。


「ご心配なさらないで! それが悪役令嬢キャロライン・インヴァーのお役目なのですわ!」

「え、いや、けど…………あ、そ、そうか……プレイヤーが手にかける『カルマ』……」

「はい、身分『貴族』でプレイヤー性別が『女』の場合のシナリオの犠牲者がわたくしですの!」

「そ、そんな笑顔で言う事?」

「え? ですがそれがシナリオですので……」


 そうですね、エイラン様もこのゲームを始める時にきっと誰かを手にかけてしまった。

 どのシナリオかは分かりませんが、このゲームのある意味『始まり』は『カルマ』を背負った瞬間から。

 ……なんとなく、エイラン様はその『カルマ』に向き合って『真実』にたどり着きそうな方ですわね。

 エルミーさんは……多分、わたくしの死の真相にはたどり着く事はなさそうですけれど。

 良いのです。

 このゲームは真相にたどり着かなくても。

 カルマから逃げても良いのです。

 その上で、自由に生きていいゲームなのです。


 ただ——……


「ただ、わたくしはその前に今のわたくしが何者なのかをちゃんと知りたいですわ。わたくしが死んだ後、きっと改めて新規のプレイヤーさんと関わると思うのですが……このバグが今だけなのか、これからも続くのか分からないですし……そうですわね、死ぬ前の身辺整理的な? はい、それがしっくりきますわね」

「……………………」


 サァ、と風が通り過ぎる。

 緑の香り。

 たとえデータであってもここがわたくしの生まれて生きてきた世界なのだと、感じられますね。

 髪をたくし上げ、エイラン様を見上げるとなんとも形容しがたいお顔をされています。

 悲しそうで、辛そうで、泣き出しそう。

 もしかしたら『カルマ』を思い出しておられるのかもしれませんわね。


「…………オレ、このゲームの最初はあんまり好きじゃないんだ」

「え?」

「あんな風に誰かを……NPCだって分かってても殺さなきゃいけないって分かってたら、きっと始めなかった。短い間でも友達でいてくれて、最後の方はNPCじゃなくて、本当にそこに生きる人間のように思えて……でも、あんな風に……オレ……自分の手で……」

「はい」


 それがこのゲームの真髄です。

 その手を汚す。

 人は罪を犯す事なく生きるのは不可能ですから。

 それを自覚して、その上でどう生きるのかを問うゲームなのです。

 意外と奥が深いのですわよ。

 だから逃げても良い。

 そして、真相を追求しても良い。

 ここがあなたプレイヤーの生きるもう一つの世界げんじつ


「君はなぜ死ぬの?」

「それはシナリオをプレイなさらなければ分かりません。わたくしは少なくともプレイヤーさんの為だけに死ぬ事はございませんわ。貴方の手にかけたNPCがそうであるように」

「……そう、か……」

「貴方は真実にたどり着きましたか?」

「…………うん」

「きっと喜んでいると思いますわ」


 ああ、ですよね。

 貴方はきっとそうだと思いましたわ。


「……………………協力するよ」

「え?」

「君の記憶の事。オレになにができるの?」

「まあ! ありがとうございます! ええと、そうですね……今のようにぽろっと本来なら知らないはずの事を口走るかもしれませんので……冒険のお話を色々聞かせてくださいませ!」

「分かった。じゃあ、釣りと狩りをしながら話そう」

「はい! お願い致します!」


 エイラン様、お優しい方ですわね!

 これでわたくしのこの記憶の混濁の理由や正体が分かれば良いのですが……。

 でも、わたくしがキャロラインでなかったら、わたくしはエルミーさんに殺される事はないのでしょうか?

 もしくはわたくしが本物のキャロラインではないから、ストーリーがシナリオ通りではないのでしょうか?

 だとしたらわたくしはどうしたら……。

 うーん、新たな問題が発生しましたわ!




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