第12話ですわ!



 しくじりましたわ。

 ハイル様と冒険に行く約束をしてしまいました。

 そして、結局プレイヤーさんとハイル様のお食事イベントが起きていませんわ!

 わたくしが毎日こっそり練習している「おーっほっほっほっ!」の高笑いを披露する機会が!

 …………いいえ、まだチャンスはありますわ。

 多分今日、エルミーさんはログインしておられなかったのです!

 もしかしたらイベントは明日かもしれません————!



 と、思っておりましたのに!

 二日経ちましたわ!

 冒険にお出かけする日ですわよ!


「……お、おかしいですわ、本当にお食事のイベントが起きませんでしたわ……。はっ! もしかしてわたくしがお休みしている間に……? ですが、チュートリアルが終わっていなかったはずですし……?」

「お嬢様、ハイル様がお見えになられましたよ」

「ふぁう! 今行きますわ!」


 フローラに呼ばれて、わたくしは部屋から出ます。

 階段を降り、玄関へ向かう。

 ほあぁ〜……ハイル様……。


「! キャリー……、冒険者装備の君も、とても可愛いな……!」

「! あ、え、あう、あう、あ……お、お、お褒め頂き、こ、光栄です、わ……! は、ハイル様も……」


 わたくしは本日、制服ではございません。

 冒険に行きますので、冒険者装備です。

 髪はポニーテールにして、薄い紅色の革のジャケットと黒いベルト、簡易な鎧と茶色いパンツ、黒いブーツ。

 採集に行くのでポシェットに道具を詰め、肩に掛けております。

 武器は一応『杖』ですわ。

 わたくし、幼い頃から『魔法スキル』を教わっておりますもの。

 あまり多くはありませんがサポート系の簡単な魔法な五つほど使えますのよ!

 そしてハイル様は黒を基調とした冒険者の装い。

 胸当てと肩ベルト、腰には剣。

 端正なお顔立ちに高貴な黒は大変に映えます。

 お似合いです、素敵です、格好いいです……!

 はうあ〜〜! 好き〜〜!


「では行こう。あ、公爵たちはご在宅かい? いるのなら挨拶を……」

「いえ、旦那様たちはすでにお出かけでございます」

「そうか、分かった。では、今日一日キャリーを預からせてもらう。行ってくるよ」

「はい、お嬢様をよろしくお願い申し上げます」


 頭を下げるフローラ。

 わたくしは家の中を覗くように肩腰に眺めた。

 そういえば……わたくしは家の中でお父様やお祖父様を見た事がない……ような……?


「んっ……」

「キャリー? どうした? 頭が痛いのか?」

「あ……いえ、大丈夫ですわ。治りました」

「…………」

「ご心配をおかけしました。本当に大丈夫ですわ。きっと、その……昨夜、楽しみであまり、眠れていなかったので……そのせいですわ」

「! そ、そうか」


 これは本当なのですわ。

 わたくし昨日はあまり眠れなかったのですわ。

 だってハイル様とお出かけですもの。

 嬉しいに決まっていますわ。

 ……さして好きでもないわたくしのご機嫌とりの為に、お時間を裂かなければいけないハイル様のお気持ちを想うと素直に喜んではいけないのでしょうけれど……。

 だからこそ、今日は足手まといにならないように頑張りましょう!

 初心者用ダンジョン『小さな洞窟』!

 最高レア素材は『金』と『ルビー』でしたわね。

 見つけられると良いのですが……。


「手を」

「!」


 ハイル様は付き人のNPCと共に馬に乗ってこられたようだ。

 馬車では確かに行きづらい場所ではありますけれど……これは驚きましたわね!

 プレイヤーさんとのお出かけイベントでも、馬になんて乗っておられませんでした。

 ええ、現地集合現地解散でした!

 馬のNPC……いえ、乗り物があるのは知っていましたが……。


「キャリー」

「は、は、はい!」


 ハイル様の手袋をした手に自分の手袋をした手を載せます。

 でも、温もりは伝わる。

 大きくて、温かい手。

 その手に引かれ、わたくしはハイル様の腕の中に収まってしまう。

 あ、あうううう! は、恥ずかしいですわ〜〜!

 それに今日はズボンですので、そんな横向きに座る必要はないのですがぁ〜……あ、あうう、でも、背中にハイル様のたくましい腕が回されて……あううぅ!


「行くよ、掴まって」

「は、はい。失礼致します……!」


 え、ええい、ここは観念致しますわ!

 ハイル様の、胸に……し、失礼致します!

 う、ううう、顔が熱いです。

 心臓の音がとてもうるさくて、ハイル様に聞こえてしまったり……しないでしょうか?


「うひゃあ!」

「揺れるよ?」

「は、はひ!」


 そうでした。

 お馬さんはとても揺れるのでしたわね。

 お屋敷から学院。

 学院から、更に『小さな洞窟』へ。

 大体三十分ほど、お馬さんに揺られました。

 ハイル様はその間、わたくしが落ちたりしないように支えてくださったり、気を紛らわせる為に話しかけてくださいます。

 ああ、なんてお優しいのでしょう。

 わたくしのような者にもハイル様は、こんなにもお優しい。

 ……ですが……。


「あの、ハイル様……ハイル様はエルミーさんの事をどう思っておられますか?」


 お食事のイベントをスルーしてしまったかもしれませんので、探りを入れておきましょう。

 ハイル様のヒロインへの好感度は……いえ、好感度とか関係なく、イベントは発生するのですが……。

 見上げると、ハイル様のお顔は……え、笑顔……?

 笑顔なのに、怖い!?


「キャリー、今日彼女の話はなしだ。一切なしだ。名前を聞きたくない」

「は、はひ! すみません!」

「いや。ほら、そろそろ着くよ」

「は、はい」


 あれ!?

 ハイル様の中のヒロインへの好感度……いくら関係ないからといってもなんだかおかしな感じではありませんか!?

 う、うう、なんだかエルミーさんのお名前を出しただけでハイル様の笑顔の温度が急激に下がったような……。

 せっかく和やかな雰囲気でしたのに……失敗してしまいましたわ。

 でも、名前を出すな、だなんて……ハイル様、エルミーさんの事まだそんなにお好きではないのかしら?

 確かにシナリオの序盤ではありますけれど……最近他の生徒会役員NPCたちと元気に追いかけっこをしてらっしゃるから、それなりに仲良くなっていると思いましたのに……困りましたわね。

 次はお勉強イベント。

 チュートリアル授業で『細剣』『短剣』『大剣』『魔法』を習得すると起きるイベントですわ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る