第2話ですわ!


「……ハイル様……」


 そうですわ、ハイル様は主人公ヒロインに惹かれる運命なんですわ。

 だってそれがこの世界の……『ディスティニー・カルマ・オンライン』の基礎となるシナリオですもの!

 ハイル様は主人公ヒロインに惹かれ、そしてわたくしが主人公ヒロインに殺されるという罪を目の当たりにする運命!

 わたくしは、ハイル様に寄り添えないばかりかハイル様がようやく見つけた初恋まで奪ってしまい、王太子の座まで……!

 それは嫌です!

 決めましたわ、わたくしハイル様に嫌われます!

 そしてハイル様にはわたくしよりも主人公を選んで頂きましょう!

 ええ、そうしましょう!

 その方がきっとハイル様もスカッとするはずですわ!

 あ、けれど王太子の座はハイル様が努力の末にそれに相応しい教養を身に付けて得たものでもあります。

 主人公を選んでその座を投げ打つよりも、わたくしが超〜〜〜〜〜〜! 悪女になれば婚約破棄もやむなしですし、ハイル様もそれで主人公と結ばれますし……わたくしが悪者として処刑されれば主人公も罪を負う必要もなくなってみんな幸せですわよね?

 それで参りましょう!

 わたくしはどうせ死ぬ運命なのですから、それをちょっとだけ皆様の為になるように脚色すれば良いのですわ!


「…………っ」


 大丈夫、泣いてる場合ではありません。

 ハイル様の、いえ、王家の権威を取り戻させるチャンスでもあるのですから!

 ある程度シナリオ通りに進めて、わたくしがもっと邪悪な女になれば良いのです!

 インヴァー家の権威を貶めるほどに!

 そうすればハイル様が王位に就いたあとは……あの方の努力が身を結ぶ事でしょう。

 シナリオでわたくしは、死ぬのです。

 だから……。


 だからハイル様、ハイル様は幸せになってください。

 そうよ、全てはハイル様の為に——!





 ***



 と、いうわけで翌日。

 わたくししっかり準備して参りましたわ!

 ふふふ、ご覧になられなさい主人公!

 ゲームよりも派手に苛めて差し上げますわ!

 まずは……か、可哀想ですが生卵攻撃です!

 昔なにかの書物で読んだ気がするので手下になってくださった全校生徒に協力して頂き、登校してきた主人公を玄関ホールの踊り場で総攻撃ですわ!

 主人公は学院の制服が一人だけ色違いの仕様なのですぐに分かります。

 ほら、やっぱり一人だけピンクですわ!

 あの娘に間違いありません!


「あの、キャロライン様? 本当にやるんですか?」

「や、やりますわ。卵がもったいないですが、わたくしやると決めましたのよっ」

「体めちゃくちゃ震えてますよ? キャロライン様こそやめた方がいいんじゃ……」

「だ、大丈夫ですわ! わたくし立派な悪役令嬢になってみせますわ!」

「なに言ってるか分かんないけどキャロライン様が震えながら半泣きで決意された事だ。頑張って手伝おう!」

「「「おおう!」」」

「そ、そうね」

「分かりましたわ」

「あ、あうう、皆様すみません、わたくしのわがままを……!」


 学院の皆様の優しさに漬け込んで、わたくしなんて非道なのかしら!

 い、いいえ、わたくしは悪役令嬢……このくらい朝飯前にならなければいけませんわ!

 悪女に……ええ、極悪な悪役令嬢にならなくてはいけません!

 ゲームの中よりもっと酷い事を周りや主人公に強要するのですわ!


「るん、たったーるん、たったー」


 は!

 入ってきましたわ!

 鼻歌を歌いながらスキップで!

 あんなにご機嫌なところを、生卵の雨攻撃しなければいけないなんて大変に申し訳ないですわ!

 でも、でも!

 これもハイル様の為……!


「え、えーい!」


 わたくし頑張るのですわ!

 まずは第一球!

 く、く、く、くっ食らいやがれ、ですわー!


 べしょり。


 あ、卵が潰れた音がしましたわ!


「い、いかがですか! 当たりましたか!? ヒロインはあっけにとられておられますか!?」

「いえ、明後日の方向の床に落ちました」

「キャロライン様、ちゃんと両目を開けて投げないと……」

「あとなんで後ろ向いてるんですか?」

「あうううぅ〜、だ、だってこんな酷い事……直視出来ません〜」

(((やめればいいのに……)))


 なんとなく、あの辺りかな、と思って投げたのですが……は、外れてしまったのですね。

 卵さんを一つ無駄死にさせてしまうなんて……ああ、鶏さんごめんなさいですわ!

 こ、こんな事ではいけませんわね、鶏さんの卵さんを無駄にしない為にも、両目を開けて標的をしっかりと確認しませんと!

 い、いざ!


「っ」

「!」


 見上げてきた赤い髪の少女……ピンクの制服。

 間違いありませんわ、あれがヒロインですわね!

 見覚えがある『アバターパターン』です!

 目も合ってしまった事ですから、こ、ここは堂々と宣戦布告して、わたくしが『敵』であると彼女に理解してもらうべきですわよね!

 他の皆様はわたくしの指示で仕方なく貴女をいじめるのであって、他の皆様は全く悪くないという事も印象付けつつ皆様がわたくしが断罪される時に被害を被らないようにしなければなりませんものね!

 ええ、そうですわ!

 階段の踊り場を見下ろせる位置に移動して……いざ!

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