第549話 フェリの話2

フェリの疑似体は、彼女の感情をよく表現している。昔の悲しい出来事を思い出しているのか、重い表情で話を続けた。


「長く苦しい戦いにも終わりを迎える時がやってきました。だけど、その時にはほとんどの英雄たちはいなくなり、残ったのは二人だけになっていました」


「二人を残してみんな死んだのか?」

「死んだ者もいましたし、どこかへ消えた者もいました。全ての英雄たちに共通して言えるのは、もう疲れ果てて戦う力を失っていたということです。残っていた二人も例外ではなく、休息の時を希望しました」


「そうか、老化しない体になってるんだっけ?」

「はい……悲しいことに、英雄に人間らしい最後を送る資格はなかったのです」

フェリにとっては、その言葉には何か思いがあるのか、一際悲しい表情になった。


「その二人は私の親しい友人でした。彼らの希望を叶え、私はある場所に二人を封印しました。その時、こんな約束をしたのです」

「約束?」

「そうです。その約束は、巨獣との戦いがまた始まった時、眠りから目覚めて、また共に戦うと言うものでした。私はその約束と同時に、一つの決意をしました。戦いに疲れた英雄を、決して約束の時までは起こさないと誓ったのです」


疲れた友人たちを労わってそんな決意をしたのはよくわかる。少しでも長く休ませたいと思ったんだろうな。


「今現在、巨獣の封印が弱まり、人類と巨獣との戦いは目の前に迫っています。約束の時は近いとは感じていましたが、少しでも長く、その時を先延ばしに考えていました。そこで私は、封印を解くその時を運命に委ねたのです」


「運命に委ねるって、どうしたんだ?」

「私が意図することなく封印の地に訪れる事があれば、その機会を約束の時としようと思ったのです」


「おいおい、まさかだけどその封印の地って……」

ジャンは何かを察したのかそう聞く。


「はい、今、向かっているマルヌダークです」

質問に答えを聞いて、俺も事の重大さにようやく気付いた。

「それじゃ、約束の時がきちゃったのか!」


「そうです……だけど、まだ悩んでいるのです。今、封印を解けば、彼らを人同士の争いに巻き込まないか懸念しております」


よくわからないけど、今の時代も決して平和とは言えない。英雄と呼ばれたような凄いライダーが復活したら、間違いなく本人の意思とは関係なく戦いに巻き込まれると思う。まだ巨獣が完全に復活したわけじゃない今、休息中の彼らを起こすのに躊躇するフェリの気持ちはわかる。


「そうか、ならもう少し休ませてやれ、巨獣との戦いが始まる前に起こせば約束的に問題ないんだろ」

ジャンもフェリの気持ちを理解したのかそう助言した。

「魔導機黄金時代の英雄ライダーですよ。間違いなく、無双鉄騎団の強力な戦力として活躍してくれると思いますがいいのですか?」


「うちは今でも十分強いだろ。疲れ果てた者に鞭打って働かすほどこまっちゃいねえよ」

「そうだな、ジャンの言う通り無理に封印を解く必要はないよ。まだ休ませてやればいいんじゃないか」


俺とジャンがそう言うと、フェリの疑似体は深く頷いた。

「やはり二人に相談して良かったです。これでもう少し、彼らの休息を邪魔しないですみそうです」


そう言う彼女は嬉しそうだった。

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